第7話 i m not you

# 21

「説明はしない」

二人ほど戦闘員が前に出る。その後ろの二人が床に何か、手榴弾のようなものを転がすと鈍く詰まったような音とともに煙が船倉に充満しだした。

「催涙ガス」

戦闘員がフェイスのヘルメットを被ってるのはこの為か。

要救助者が口や目を抑えて逃げ惑う。

依頼された要救助者がせき込みながら此方を見ている。

溜息を一つついて

「風。」

一言呟くと、船倉の入り口から強風が吹き込み、気圧をげると、今度は船倉から外へと空気が流れ出る。

防護マスクをしていた戦闘員は何の影響も受けなかったが、指揮官は少し動揺したらしい。襲い掛かってくるはずの戦闘員二人も引き上げ撤収し船倉の扉を閉めた。


扉の外に歩哨を立て、指揮官が後退していく。分厚い鉄板なのでロックしてしまえば出ては来れないはずだった。気味の悪い敵から離れて安堵する指揮官。

砲撃でも受けたかのような音。扉から水平に火柱。

船倉の扉が炎の槍に貫かれて吹き飛んだ、様な気がした。

歩哨二人が扉の左右に転がっていると、鍵を開けて男が悠々と船倉から出てきた。灰黒色のコートにカーキのチノパン、細身の男は転がっている戦闘員を一瞥して

「説明、しようか?」

と指揮官を見た。


フェリーの車両置き場で戦闘員達と対峙する。

互いに放てばガソリンに引火してタダでは済まないロケーションだった。

幸い客室には殆ど客もなく、数人の客が上のフロアの手すりにもたれて見物していた。

要救助者達はこのような展開に現実感が持てないのか、助けられている状況でも、あまり喜んだ様子はなかった。

大声で客に下がるように注意すると指揮官は右手で此方を指さした。

戦闘員達の軽機関銃が連続して銃弾を発射しだす。

先程と同じように炎の壁を自分の周りに盾として配置する。軽機関銃の弾丸が炎で蒸発した。

戦闘員は正面を軽機関銃二丁で抑えつつ、左右に四人ずつ打ちながら展開しだす。

「殺してしまいそうだ」

冷静に戦闘員の姿を見る。

白いツナギのような服。ポケットは多いが替えの弾倉を二個ぐらいしか持っていなさそうだった。

炎の壁の威力で、撃っては来るが接近はしてこない。

後二つ炎の壁を作って戦闘員を分断した。

――殺さないと、戦闘は終わらない。慣れたのか炎の壁にも驚かなくなってきている――玉切れで正面の敵が後ろの二人と交代する。仕方がない。

「現身に焦熱地獄’」

十二人全員の足元から地獄の業火が燃え盛った。

青白いガスバーナーに焼き殺される戦闘員達。

立って居られず皆、甲板を転げまわる。

それでも炎はおさまらなかった。

後方の船倉扉付近に居た要救助者、霧子が拍手する。すると残りの要救助者達も拍手しだした。指揮官は手に自動拳銃を持っていたが、気絶した部下を置いて、銃も使わずに逃げだした。

「――概ね完了、と」

霧子の方へ歩いていく――。

砲撃音。


大きな音と水柱が幾つか海上に発生した。

艦影は見えないが、砲撃だろう。何発目かの砲撃が至近弾で船が大きく揺れた。

何が来たか知らないが、船ごと沈められては困ることが多い。コートの右のポケットから携帯を取り出す。

アプリをタップするとGPSで位置が特定された監視衛星の艦影情報が映し出された。軽巡二隻が距離一海里程に接近していた。下手に手を出すと戦争になりそうだが、毎度のことだった。

携帯のスクリーン上にある艦影の上をタップする。

十キロ以上先の上空に黒い雲が立ち込めだす。

「後は頼んだ」

暫くして砲撃は止んだ。

今度こそ依頼達成のはずだった。


海上警備の高速艇が接近していた。


#22 

接舷した海上警備の高速艇。フェリーの甲板で検証する海上警備員。高速艇甲板の要救助者と名絃。霧子の事情聴取が終わる。


上空を報道のヘリが旋回している。

「大事になっちゃったね」

「被害者だから問題ないわよ」

「無事でよかった」

桐は何だかウェットだった。

「ご歓談のところ恐縮ですが、お支払いの誓約書にサイン願いませんか」

「幾らになったんでしょうか」

「実働六日内危険作業日一日で十二万になります」 


高速艇はフェリーを離れ港へと向かっていた。

船室で休息している所在国外移送被害の人々。

「例の男は?」

「心配性だね」

完全に不安を払拭と言う訳にもいかないらしい。



「あの探偵」

「何、惚れた?」

「あんたじょないのよ」


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