第6話 天佑
#18
後ろの敵が黙って突いてくる。
「危ないな。」
見えているかのように避ける
よけられて名絃に並ぶ後ろの敵。もう一度斬撃を加えようとして名絃に襲い掛かる。振りかざした手の中の刃が。
燃えた。
青白い閃光を放って砕け去る敵の刃。
敵は懐から拳銃を取り出す。
「接近戦で使うかな」
敵が銃弾を放つ前に右手で敵の手首を叩く。既にセーフティが外れていて、引っ掛かりで引き金がひかれる。連射された銃弾は要救助者たちの方へと放たれた。
炎の壁が要救助者と敵の間に生じ全弾炎の壁に衝突して蒸発するように宙に消えた。
かかってきた敵を避けて足を払う。
転がる敵の男。コンクリの壁に勢いよく倒れて呻く。床に転がった敵の息は荒い。
「何故判った」
解かるかどうかは知らないが、事実そのままを答える。
「見えた、から」
炎の壁を通り抜け、要救助者の方へと足を踏み出した。
#19
案の定、霧子は奴のヤサの一つに捕らわれていた。
ことは終わってしまった後なのか部屋に他の気配はなかった。
家主の女もいなかった。
「無事?」
縛られるでもなく、手錠をはめられるでもなく。
「何もされてない?」
霧子の両腕をチェックする。
無事なのは良いが逃げ出さないのは何故だろう
「逃げ出さないのが不思議か」
気が付くと男に背後を取られていた。
振り返ると身長180㎝強、ガッチリとした身体に運動しやすい蛍光色の服を着た軍人風の男が立っていた。
「派手な奴」
「何か手を打ったのか?」
通報したかったが下手に通報して行方知れずになってしまえば後は失踪七年で死亡扱いされてしまうだけだった。
と言って二十億もの大金は支払えない。
「明日、あちらへの定期便に一人載せる。二十億か、身柄か。何方か必ず貰う」
霧子はまだ焦点が現実に合っていないようだった。
通り過ぎる車のエンジン音が階下遠く流れてくる。
何処からともなくうねる様な環境音。
深く青い闇とビルの照明。
薄い雨雲に覆われて星の見えない夜空。
自分たち以外誰もこの世に居ない、そんな錯覚を覚える。
「元気出た?」
栄養ドリンクを飲み干す。
桐が下のコンビニで買ってきてくれた。
「……まぁ」
缶コーヒーをすする。
「そろそろ逃げなよ」
男がいなくなって一時間。
「どうせさっきの奴が」
コンビニに買い物に降りても出てこなかった。何処かで監視しているはずなのに。――少し恐怖を刷り込まれたようだ。
コーヒーを飲む。
桐は窓の外を見てる。長雨は止みそうだった。
振り返って桐が、
「明日は私が行くから」
決意したように言った。
私が、とは言えなかった。臆病になってしまったらしい。
「……何処行くかわかってる?」
悪人相手というのもあるが、この手の話で売り飛ばされる先といえば、所在国外移送というのが近頃の成り行きだった。それは桐もよく知っているから、
「……もう、会えないかもね」
と言って復窓の外に目をそらしてしまった。
「脅迫なのになぁ。いや強要か」
法律なら刑法違反で取り締まれるはずだが、国家がこう衰退してしまってはどうにもならない。法を執行する能力が失われてしまえば国法など有って亡きが如しだった。
「そもそも私の問題だから」
桐は窓の外を眺めたまま呟いた。
「桐の問題は私の問題――」
遮るようにして、桐は言った。
「あなたは私じゃない」
#20
依頼された要救助者を要救助者たちの中に発見。写真の女性と同一人物と断定した。
「霧子さんですね。」
要救助者は、無傷のはずだがひどく消耗しているように見えた。扱われ方が「物」だったせいかもしれない。反応が鈍い。若しかすると過敏に反応しないように薬物を服用させられているかもしれなかった。
ほかの要救助者も同様に鈍麻した反応だった。
暫く此方の顔を見て要救助者が答えた。
「ええ、私が霧子です」
「依頼により救助に来た、諭明名絃です」
手を差し出すと霧子は握り返した。そのまま引っ張って立ち上がらせる。
「もう大体大丈夫ですので、家へ帰りましょう」
「違約金に二十億かかる、とか」
「相手が全損でも此方に法的責任はないですし。どうせ非合法取引です――」
「――従って船上では私が法だ」
船倉の入り口に十人以上の兵士を連れた指揮官クラスの男が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます