第13話  できるか~!

『 そうだ。

ぐだぐだ考えずに、好きなもんは好き。

とりあえずは、それでいい。


この先の道に、何が在ろうと、

今日の僕の、この想いは

今日の僕だけのものだ。

昨日の僕にも、

明日の僕にも、

さわることのできない、

今日の僕だけのものだ。 』

 

 詩だか何だかよくわからないけど、あの日浮かんだ言葉を、書き連ねて、僕は、無事課題を提出した。何を書いたかは、想子さんには、内緒だ。


 きゅんきゅん作品群は、作者名は載せずに冊子にして配られ、それを読んだ全員の投票によって、人気を得た作品には、賞が贈られるらしい。

 一番得票数の多かった作品には、『きゅんきゅん大賞』なる賞が贈られ、その作品はきれいな和紙に墨書して、さらに額装してから、他の入賞作品とともに、1週間展示され、後日、額ごと渡されるのだそうだ。

 いや、もらっても、それ、どこに飾るねん?って話やけど。



 僕は、もらってきた冊子を、リビングのソファに座って、読んでいた。

「何読んでるん?」

 想子さんが横に座ってのぞき込んでくる。

「きゅんきゅん作品集」僕は、答える。

「ああ。例の課題のやつね」

「うん」

「ちょっと貸してよ」

「ん~。はい、どうぞ」

 ほんとは、一通り読み終わっていて、誰に投票するか、考えているところだったのだ。

 想子さんなら、どれを選ぶかな、というのも少し気になるところだ。


「ふ~んふ~ん。ふんふん」

 言いながら、想子さんは、ページをめくる。

 一通り見終わったらしい想子さんに聞く。

「自分やったら、どれに、投票する?」

「う~ん。3つほど、候補があるかな」

「うんうん。どれどれ?」

「うまいかどうか、て言うより、私が、きゅんと来るかどうか、でいいんよね?」

「そうそう」


 そして、想子さんが指をさしたページを見ると、俳句が一句載っていた。

 僕も、気になった作品だった。難しい言葉やカッコイイ言葉は何も使っていなくて、でも、すごく、熱い思いが伝わってくるような、句だ。


 俳句は、わずか五・七・五に言葉をおさめるとか、季語を入れるとか、いろんな制約があって、なんだか息苦しいなと、僕は、これまで思っていたのだ。

 でも、その句は、そんな見方が大間違いだということを、あっさり僕に見せてくれた。

季語は、単に季節を表すだけの言葉ではなく、ときに、景色や、風や、香りや、時間や、心情までも、イメージさせるすごい力を持っているのだと思えた。


「この句がいいね。きゅんとくる」

「あと、2つは?」

「え~とね、この短歌。ちょっと、キザだけど、でも、一生懸命カッコつけてるくせに、思いがダダ漏れしてるのが愛しい感じ。うん、これもきゅんとくる」


 確かに、その短歌も、僕の印象に残ったやつだ。というより、一瞬、自分が書いたんやったっけ? と思ったくらい、『カッコつけてるのに思いダダ漏れ』感に、僕も、きゅんとした。


「あと1つは?」

「うんとね、これ。この詩?みたいなの」

 ドキッとする。僕のだ。

 僕は、なんでもない顔をして、

「ふ~ん。どこがよかった?」

「ぐだぐだ考えずに、って言いながら、この作者は、けっこう、ぐだぐだ考えてるんやろなあ、って。

『この想いは、今日の僕だけのもの』って言いつつ、きっと、昨日の僕も、明日の僕も、『この想い』をけなげに、抱え続けてるんやろなって。だから、この作品の作者には、言うてあげたいね」

「何て?」

「ぐだぐだ言うてんと、さっさと告白しなはれ~」


(そんなもんできるか~!)


 ひとの気もしらないで、想子さんは、また別のページをめくって、

「これもね……、けっこうきゅんとくるよね」と話し続ける。


 そして、急に顔をあげると、言った。

「なあなあ、ところで、ダイの作品はどれ?」

「言わへん」

「けち」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る