第6話 一番大事なんは
「今日、昼、何がいい?」
想子さんが、僕にきいた。
「う~ん。なんでもいいけど、ちょっとボリュームもほしい」
「そやねえ」
「ただ、あんまり肉肉しいのは、ちょっとしんどいかな」
「よし。じゃ、水餃子にしよう。ツナと白菜とキャベツで」
「うん。それなら入りそう」
想子さんの水餃子は、肉を使わない。ツナと、茹でて細かく刻んで水けを絞った白菜・キャベツでつくる。ニンジンを入れるときもある。皮はもちろん市販のものを買ってくる。
手早く野菜を洗って、お湯にさっと入れて、ほんの少ししんなりしたら引き上げて、絞って水けをきって、刻む。そこにツナと、醤油と塩コショウ、ごま油を風味づけに少し。それを、適量ずつ皮にのせて包む。
テーブルに、卓上のIHコンロを用意して、そこに水を入れた鍋をのせる。
お湯が湧いたら、餃子をほうりこむ。肉を使っていないから、あまり火の通りを気にしなくていい。浮かび上がってきて、皮がつるんとなったら、出来上がりだ。
そのまま食べてもいいし、ポン酢とか、濃いめのめんつゆとかで食べてもいい。
僕は、まず、何もつけずに1個目を食べた。
「うま」
「うん。これやったら、重くないし」
「さっぱりしてるから、何個でも食べれるよね」
「そう。それが、ちょっとキケン」
餃子が全部なくなっても、少し物足りなかったのか、想子さんは、残っていた白菜を鍋の湯に投入する。ついでに、豆腐も入れる。いまさらやけど、と言いながら、昆布も入れる。
「最初から、鍋にしたらよかったかな?」
僕が言う。
「かもね」
白菜をつまみあげながら、想子さんが言う。
ちゃんと、手順を踏んで、それぞれの食材を、ベストの状態で調理する人から見たら、きっと、びっくりされるやろなあ。僕らは、途中から、鍋ものに切り替わった、お湯を眺めて、てへへ、と笑う。
「まあ、いいんちゃう?何を、どうやって食べるかっていうのも、とても大事やと思うけど、私にとって、一番大事なんは、『誰と食べるか』やもん」
(え?それどういう意味?)
「そやろ、一緒に美味しいねって言い合える人と食べるのが、一番やん。何食べても、『つまらん』て顔してる人と食べたって、美味しくないもん」
「そ、そやな。たしかにな」
そういう意味か。ちょっと深読みしてしまった。僕は、あわてて、豆腐を口に入れ、思わず、熱っ!と声をあげる。想子さんが、
「ほら」
冷たいお茶のコップを差し出す。お茶を急いで飲み干して、僕は、口の中も胸の中も、大急ぎでクールダウンする。
「あわてもんやねえ」
想子さんが、笑う。
「うるさい」
(ひとの気も知らないで)
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