不平等
この世は不平等だ。
金があるものは生まれながらにしてあるし、容姿は遺伝によって優遇される。
貧しい環境で生まれることもあれば、恵まれた環境で生まれることもある。
望む望まないにかかわらず、神様は不平等に気まぐれに一人一人に抽選を行ってしまう。
才能だってそうだ。
いくら性格に難があろうが、いくらこれ以上何もいらないというほど恵まれている人だろうが、気まぐれに選ばれてしまえば才能を持って生まれてしまう。
ひたむきに努力しても、どれだけ神に祈りを捧げようとも、運が悪ければ小さな才能すらも与えてくれない。
あぁ、別にそこにそこまで恨んでいる人はいないかも。
人は己の境遇を甘んじて受け入れてしまう傾向にある生き物だからさ。
自然に、仕方ないのだと、これが自分なのだと己に納得させて、隣の芝は青いなと楽観視で止まる。
そう、もう他人事で話を終わらせるんだ。
英雄が多くの人を助けました~って話がもしあるとするじゃん? その時さ、皆なんて言うと思う?
『凄い』
『流石は英雄だ』
『ありがとう』
だぜ?
いや、もちろん凄いことだと思うよ。才能があっても誰かのために拳を握れるなんてできることじゃないからさ。
けど、誰もこうは思わないんだ―――
【私だってお前みたいな才能があれば】
悔しくないの? もしも才能に恵まれていれば、栄光も脚光も畏怖も尊厳も全てが手に入っていたかもしれないのに。英雄と呼ばれていたのは自分かもしれないのに。
もう、皆は諦めてるんだよね。隣の芝が青いって思っていても、自分の芝を青く染めようとはしない。
負け犬根性ここに極めり、だよね。
ほんと……クソ食らえ。
そのクセ、必死に努力している人間を自分のことを棚に置いて比較しやがる。
あいつよりあいつの方が、どれだけ頑張ってもあいつの方が、あいつがいる限りお前は、あいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつは。
そして、英雄は下を鑑みない。
守るべき者だと勝手にカテゴライズして、好敵手とも地位を脅かす強敵とも思っていない。
自分の才能を信じて疑わず、上しか考えていない。努力する人間など、所詮眼中に入っていない。
ある意味外野よりも酷いよ、才能がある恵まれた人間っていうのは。
必死に足掻こうとしている人間の気持ちなんて知らないんだから、一生寄り添うことも意識下に入ることもないんだから。
その背中を追いかける人が、英雄の心情を覗き見たらビックリするだろうね。
きっと、大っぴらに公言されるよりももっと絶望的なはずだからさ―――
「はぁ……だからなんだって話」
ふと、少女は窓の外を覗き込む。
少し重く、どこか無気力なため息を吐きながら騒がしくなった校舎と月明かりをそっと見下ろした。
「結局さ、一番の被害者って高みを目指そうと努力している人間だと思うんだよ」
椅子にもたれ掛かりながら、ゆっくりと口を開く。
「諦めた人間は自分の未熟さを紛らわせるために、自分にはできない努力者を下に見ようと才能者と比べる。んで、努力すらも必要としない才能者は下を見向きもしない。追いかけようとしているのに、まるで勘定にすら入っていない」
間に挟まれた努力者は一体どのような気持ちなのか?
味方はおらず、応援すらしてくれず、追いつこうと思っている人間には脅威にすら好敵手にすら思われていない。
ただただ、誰にも認められず。ただただ、孤独で。ただただ、哀れましい。
「ポッキリと折れちゃえば話は早いんだろうけどね。才能はないから努力はやめようって、追いかけるのはやめようって、自分は自分なんだって。そういった点では、レイラっちは少し羨ましかったよ……いや、彼女は彼女なりに自分の土俵を見つけちゃったのか。結局、何も持ち合わせていないのは私だけだったのかも」
あの情報収集能力は立派な恵まれた才能だ。
人脈、伝手、察知、記憶力、ありとあらゆるものが秀でていた結果、どこに出ても恥ずかしくない才能となり得た。
きっと、任務をたった一晩で解決できるような能力は王国でも有数だろう。
自分とは違う―――自分の代替えなどたくさんある。
「悔しいよね、勝手に仲間意識があってさ。自然と理解ができないって見下していたのにさ。蓋を開けてみれば私の一人相撲……ハッ、クソ食らえ。あいつに認められなかったのは私だけ、見向きもされないのは私だけ」
だから、と。
「これは下剋上だ。才能がないと馬鹿にした連中と、弱者だと決めつけていたシリカを使って、シリカが認めた才能者を潰す。魔法と剣の才能を持つリーゼロッテ、情報収集能力に長けたレイラっち、そしてすべてに恵まれた異端児なアル坊———そいつらを潰して、私は見下したシリカも比較してくる外野もまとめてひっくるめて見返してやる」
そして、その執念にも似た憎悪の瞳はゆっくりと教室の入り口に向けられた。
しかし、それもすぐさまどこか憐れみの篭った瞳へと変わっていく。
何せ―――
「君にだったら分かってくれるんじゃない? 才能がある弟の傍にいる……セシルなら、さ」
―――視界に映ったのは、同じ境遇に立つ金髪の少女だったから。
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