アカデミーへ帰宅
書籍第2巻、ファンタジア文庫様より絶賛発売中✨✨
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遠征任務が終われば、アルヴィン達は用がないとみなしてアカデミーに戻ることとなる。
どうやら先に魔法士団はアカデミーに戻ったらしく、思いがけぬ一日休暇をリーゼロッテから頂いたアルヴィン達は一日遅れでアカデミーへと向かっていた。
地方ということもあって、帰るまでもそれなりの時間がかかる。
馬車を何台か用意し、道中休憩や宿泊、そして誰の案内もなく己の足でアカデミーへと戻らなければならない。
リーゼロッテ曰く「騎士になればこのような機会が増えるでしょう」とのこと。こうして大人の同伴もなく帰っているのはそのための訓練も兼ねているのだろう。おかげで交代で馬車に乗らず歩かされる羽目となった。
そして、アカデミーがそろそろといった地点に差し掛かった頃。
陽はすっかり沈み、薄暗いライトに照らされた王都の中は少し不気味な静けさに支配されていた。
「あー……やっと王都」
最後の順番を馬車の中で過ごしていたアルヴィンは窓枠に寄りかかりながらぐったりとした表情を見せていた。
それも当然。休憩を挟んでいたとはいえ長距離を移動していたのだ、疲労は溜まるに決まっている。
ぐったりとするアルヴィンの横で、セシルはグーッと背伸びをする。
「んーっ! 確かに疲れたねぇ!」
「………………ウン、ツカレタネ」
「アルくん、ここぞというタイミングでお姉ちゃんの胸を凝視するとは流石なんだよ」
「ナニヲイッテイルノカワカラナイ」
強調された胸に思わず視線が移ったアルヴィン。
相変わらず正直な姿に、セシルは何故かご満悦な表情を浮かべている。
「アカデミーに到着するぐらいには、門番の衛兵以外もう誰も起きていないでしょうね」
「教師の皆さんも帰っていそうです!」
「いるとすれば寮母の方ぐらいでしょう。といっても、もう生徒と同じで就寝しているでしょうが」
アカデミーには寮が存在している。
各地から貴族や優秀な人材が集まる王国最大の学園ともなれば、おいそれと毎日登下校できる人間も限られてくる。
そのため、アカデミーには予め申請した人間にそれぞれ部屋を貸し出すのだ。
ちなみに、アカデミーの寮使用者は全校生徒の三分の一だという。
「姉さん、もう今から家に帰るのが面倒くさい」
「ふぇっ? 疲れたんなら馬車の中で寝ててもいいよ?」
「僕はこの疲労感を癒すために早急な安眠を所望する! もう姉さんの膝枕だけじゃ満足できない柔らかいお布団がほしい!」
「そ、そんな……ッ! お姉ちゃんの膝枕に飽きちゃったってこと!?」
「違うんだ姉さん……姉さんの膝枕以上のものが、僕はほしいってだけで」
「あ、当たり前のように膝枕をされているんですね……」
対面に座るソフィアが苦笑いを浮かべる。
ちなみに、レイラとリーゼロッテも同じ馬車にいるのだが、二人は今更驚くこともないと思ったのか外を眺めていた。
その時、ふとアルヴィンの窓の近くで騎士団の人間が顔を覗かせてくる。
『アルヴィンさん、帰るの面倒だったら俺の部屋に泊まりますか? 寮住まいなんで、すぐっすよ!』
「え、いいの?」
『そりゃもちろん! アルヴィンさんだったら大歓迎ですぜ!』
寝耳に水な提案に、アルヴィンは思わず食いついた。
何せ、本当に帰るのが面倒なのだ。比較的近く、通学できる距離に家があるとはいえ、こんな夜遅くにまた馬車など乗りたくない。
王都に住んでいる父親の家に住んでもいいのだろうが、関わるのが面倒くさい。というより、アルヴィンの実力を耳にしてしまった父親に会いたくない。
なので、この提案は正しく嬉しいものであった。
「ちょっと待って! アルくんが寮にお泊りしたら……お姉ちゃん、家に独りぼっちってこと!? ダメです、お姉ちゃんは許しませんっ!」
しかし、まったく嬉しくない提案であったセシルはすぐさま抗議を入れる。
「大丈夫だよ、使用人もいるし」
「お姉ちゃん、今日は一人で寝なきゃいけないの!?」
「毎日一人で寝るものだよ」
「お姉ちゃん、今日は一人でお風呂に入らなきゃいけないの!?」
「ごめん、今日は家に帰ることにするよ」
ある一部の衝動に素直なアルヴィンであった。
「アルくんがお泊りするなら……お姉ちゃんもお泊りする!」
最後の言葉を聞いていなかったのか、セシルは立ち上がって徐にそう宣言する。
すると、いきなり外にいた騎士団の面々が一斉にアルヴィンのいる窓へと押し寄せてきた。
『アルヴィンさん! 是非とも俺の部屋に!』
『お菓子とデザート、最高級のお布団も用意します!』
『肩揉みますよ! だからどうか俺の部屋に!』
「えぇい、下心満載のゴマすりはやめろ! 姉さんとのお泊りに食いつくな僕が男の部屋に姉さんを泊まらせるわけないだろ馬鹿かね君達は!?」
姉を野郎と一つ屋根の下にさせるわけにはいかない。
久しぶりにシスコンが発生したアルヴィンは窓の外に群がる騎士団の面々を追い払った。
それでも生粋の美少女と一つ屋根チャンスを逃したくない思春期男子はめげずに食らいついていく。
そんな騒がしいやり取りを、我関せずと眺めているレイラはゆっくりと横へ口を開いた。
「リーゼロッテ様は、これから王城へ?」
「一応そう考えているのですが……正直、アルヴィン様と同じで少し億劫に感じています。何せ、アカデミーからはかなり距離がありますし、このまま帰宅するとなると立場上護衛を呼ばなくてはなりませんから」
「でしたら、私の家に泊まられますか? 部屋ならたくさん余っていますし」
「わぁっ! それはいい考えですね! 是非お泊りしてください、リーゼロッテさん!」
「ふふっ、よろしいのであればお言葉に甘えさせてください。同年代の人とお泊りなど初めてで、少し楽しみになってきました」
私もですっ、と。リーゼロッテのお泊りに瞳を輝かせたソフィア。
そして、外にいる騎士団の面々を氷漬けにし始めたアルヴィンに、レイラは―――
「あなたもうち、来る?」
「え、いいの? 絵に描いたようなハーレムに突入しても」
「私は大丈夫よ。あなたのことは信頼してるし、お姉さんをどこかに泊まらせるよりかはいいでしょう?」
「私もアルヴィン様であれば構いませんよ」
「私も大丈夫です!」
まさかの三人からのご許可。
確かに寮へ泊るよりかは、レイラ達三人と泊まった方がセットでやって来るセシルの身も安全だ。
男であるにもかかわらず女性からの信頼の厚さに、アルヴィンは思わず薄っすらと感涙を見せる。
「まぁ、鈍器だけは常備しておくわね」
「一応、アルヴィン様がいる空間では鈍器を所持させてもらいます」
「わ、私も鈍器で頑張りますっ!」
「あれ、信頼は?」
その鈍器で一体何をするつもりなのだろうか?
信頼の欠片も窺えない所持品に、アルヴィンは落胆の涙を薄っすら見せるのであった。
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