固有魔法

「時にアルヴィン様、あなたは固有魔法オリジナルが使えるようですね」


 レイラの弁当を一口頬張り、堪能したリーゼロッテがふとそのようなことを尋ね始めた。

 確かに、アルヴィンは魔法の極地———固有魔法オリジナルが使える。

 固有魔法オリジナルとは、既存の魔法から逸脱し、使用者本人のために創られた魔法で、本人にしか扱えず、本人の潜在能力ポテンシャルを最大限発揮できるように構成されているため、どのような魔法よりも強力なもの。

 並の魔法士では決して届かない領域であり、扱える人間もごく僅かだ。


「あなた、固有魔法オリジナルまで扱えるの?」

「べ、別に扱えないですけど……?」


 扱えると言ってしまえば、またしても己の評価が上がってしまいそうな予感。

 アルヴィンはそんな予感から逃げるように嘘をついた。

 ただし、いきなり嘘をついてしまったことにより、なんとも可愛らしく目が泳いでいる。


「そうですか、残念です」

「す、すみませんね! 何やら期待していたみたいですけどご期待に沿えなくて! いやー、僕もそこまで強くないっていうか―――」

「上司に嘘をついた部下に罰則ペナルティを与えなくてはいけなくなりました」

「実は僕、めちゃくちゃ強いんです」


 リーゼロッテの罰則ペナルティは、なんだかんだ怖かった。


「……知ってるんだったら聞かないでくださいよ」

「ふふっ、セシルが「尋ねてみたらすぐに嘘つくから! それがもう可愛いんだよ!」などと仰っていたので、ついからかいたくなってしまいました」

「あの姉……」

「ちなみに、固有魔法オリジナルの話もセシルから聞きました」

「あの姉……ッ!」


 いつか絶対口を縫い付けてやる、と。

 アルヴィンはまだまだ止まらない弟自慢に歯噛みをした。


「あなた、固有魔法オリジナルまで使えるって……もうなんでもアリよね。いっそのこと、国に手伝ってもらいながら大々的に自慢したら?」

「やめてよ、僕はまだ自堕落なハッピー生活を諦めていないんだ。国が総出で担ぐ馬車馬になってたまるか……ッ!」

「私としては、是非ともアルヴィン様にはそのまま王家に仕えていただきたいのですが」

「姉さんが代わりに行きますよ!」


 リーゼロッテの少し残念そうな顔がアルヴィンの視界に堂々と入る。

 美少女故か、自堕落希望のアルヴィンの心に何故か罪悪感が湧いた。


「ねぇ、気になったんだけど……あなたの固有魔法オリジナルってどういうのなの?」


 やはり固有魔法オリジナルは珍しいのか、レイラは頬杖をつきながら尋ねる。


「うーん……言っておくけど、僕の固有魔法オリジナルは他の魔法士と毛色が違うよ?」

「そうなの?」

「まぁね、僕の固有魔法オリジナルは近接戦を前提にした魔法だから、遠距離戦をメインとする魔法士とは少し使用する意味合いが違うんだ」


 魔法のメリットは、間違いなく遠距離から攻撃を届かせることだ。

 剣のリーチ分しかない騎士とは違い、本人の力量次第でどれだけ離れていようとも敵を狙える。

 詠唱が必要であり、迫られれば騎士に軍配が上がってしまうとしても、遠距離戦ほど戦いやすい武器はない。

 故に、魔法士の戦闘スタイルはメリットに応じた遠距離戦がほとんどだ。


「敵を閉じ込め、撹乱し、的を増やして、手数を増やして接近戦に持ち込む。目立ちすぎるから実演はしないけど、僕の固有魔法オリジナルは基本的にそういうもの。言うなれば、接近戦を容易にするための場所と武器を確保するための魔法だよ」

「へぇー」

「もちろん、こんなやり方をするなんて魔法士の人が聞いたら「もったいない!」って言うだろうけどね。魔法ご執心な研究者さん達のご丁寧なお説教が待ち構えちゃう」


 説明が終わったタイミングで、アルヴィンはレイラからもらった弁当箱の蓋を閉じる。いつの間にか完食していたようだ。


「あなたやリーゼロッテ様には向いているんでしょうね、そういう魔法」

「そうですね、基本的に騎士が魔法士並みに魔法を扱えるなどありませんから。といっても、私は固有魔法オリジナルなど持ち合わせてはおりませんが」

「だそうよ、規格外さん」

「うーむ……おかしい、何故神様は僕に目立つ要素をこんなにも与えたのか」


 もし、アルヴィンが己の実力を全て世に曝け出せば、きっと世間の注目を集める人気者になるだろう。

 騎士を圧倒するほどの戦闘能力があり、固有魔法オリジナルを扱えるほどの魔力総量とセンス、技術がある。

 正に戦闘において天才児。きっとこの先、アルヴィン以上の才能を持った人間は現れてこないだろう。

 だからこそ、こんな怠け癖は宝の持ち腐れとしか言いようがない。


「そういえば、レイラ様のお姉様も固有魔法オリジナルが扱えましたね」

「え、そうなの?」

「だからこそ、王家の魔法士団に所属できたのよ。私の姉はそっち方面での才能はあるから」

「恐らく、アカデミーで固有魔法オリジナルが扱えるのは彼女だけでしょう。もちろん、どこかの誰か様のように隠そうとしている人間がいなければ、の話ですが」


 何故だろう、何やらジトっとした視線を向けられているような気がする。

 そんな気がしたアルヴィンは綺麗なアカデミーの庭にそっと顔を逸らした。


「いつかお目にかかりたいものですね、アルヴィン様の固有魔法オリジナル

「……そ、そうっすね。来世までに機会が作られたらいいですね」

「こら」


 王女様のお願いを無視したことにより、レイラの軽い小突きが頭に入る。

 しかし、アルヴィンはどんどん露呈していく己の実力にひっそりと涙を流さずにはいられなかった。

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