禁術使いVS異端の天才①
文字通り、禁術を扱う魔法士のことである。
使用する度代償が生まれ、過去に魔法士が減っていたことから禁止されたものであるが、その一撃は全て強大無慈悲。
もしも、オーソドックスな魔法が広がっている現代にそんな禁術を扱う者が現れたらどうなるか?
無論、圧倒という言葉が生まれるだろう。
「ほれ、もう一回逝っておくか」
「チッ!」
サラサとの戦いはアルヴィンにしては珍しく防戦一方であった。
指が向けられる度に氷の壁を生み出し、衝撃を防ごうと試みる。それでも、次の瞬間には氷の壁ごと吹き飛ばされてしまい、自身の体によって壁にクレーターを生み出してしまう。
叩きつけられた際は、自身の内臓がぐちゃぐちゃになってしまっているような感覚であった。
もはや全て今までの位置にあるとは思えない。
(壁を挟んで受けてるっていうのに、この威力とかほんと勘弁……)
壁をなしに受けてしまえばどうなってしまうのか? 今でさえ口から血が出るほどの衝撃を受けているのに、まともに当たってしまえばどうなるかなど想像に難くない。
故に、壁を挟むことはマスト。
気を抜くことなく、逐一あの指に反応しなければならない。
(とはいえ、あいつの指は残り三本)
アルヴィンは倒れながらもサラサの頭上と側面に巨大な氷の柱を生み出した。
それをサラサは回避していく。避け切れない頭上は指を犠牲にすることによって破壊し、逃げ場を作っていた。
(多分、あいつは戦闘に慣れていない。そうじゃなかったら、わざわざ迎撃に貴重な指を捨てないから!)
食らってでも攻撃の手段を残す。
そういう思考を作らない辺り、アルヴィンはサラサが戦闘職でないのだと予想していた。
しかし、予想していたとしても現状満身創痍に近いアルヴィンが劣勢の状況に変わりはない。
「おいおい、乙女に対して随分容赦がないじゃないか。ボクはもうフォークすら握れない手になってしまったんだが」
「知らないよっ! なら大人しくぶっ倒れろ!」
アルヴィンは起き上がり地を駆ける。
両脇から氷の柱を生み出し、手には氷の短剣を握った。
あと二本……これを凌げば奴に手段はない。
靴を脱げば新しい指を使うことはできるだろうが、そうさせないためにもそろそろ接近戦で戦う必要があった。
だが―――
「安直。そうは思わないかい?」
アルヴィンの思考が止まる。
何が? そう思ってしまう頃には、もう遅かった。
ギキャ、ガリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッッッ!!!
そんな金属が擦り切れる音が鳴り響き、アルヴィンの四方から光の束が襲ってきた。
反応して対処するにはあまりにも速すぎる。
体が焼き切れるような感覚。どこになんの臓器があるのかあやふやになってしまっているような体内が、最後の一撃とでも言わんばかりに限界値を叩きこまれた。
「ガ……っ」
アルヴィンの口から出てはいけない黒い煙が溢れ出た。
そのせいか、思わずその場に膝をついてしまう。
だが、それはアルヴィンだけではない。
「ぐっ……げほッ!」
サラサの口から大量の血が零れる。
禁術使用の代償。それは容赦なく使用者の体を蝕む。
だが、サラサは平然と立ち上がる。口から零れた血を袖で拭いながら、飄々とした顔を見せた。
「少し、どこかにいる誰かのお話をしよう」
ゆっくりと、ふらふらとおぼつかない足取りでサラサはアルヴィンに近寄る。
「あるところに、二人の姉妹がいたそうな。その二人はどこにでもあるような家庭で、どこにでもいるようなごく普通の人間で、大変仲がよかった」
魔法の才能も、剣の才能もない。
生まれがアルヴィンのように貴族だったわけでもなく、ありふれた平民という生まれ。
「ある日、その姉妹の家は盗賊に襲われた。単純な不幸の始まりだったさ、姉以外は全員殺された。両親も、妹も、姉以外を残して天国へと旅立ってしまった」
それは誰の話をしているのか?
虚ろな思考ではあるが、アルヴィンはすぐに誰の話をしているのか理解できた。
「姉は激しく世を恨みました。両親を、大切な妹を失って生きる希望すら失いました。しかし、そんな時です……禁術という、素晴らしい魔法に出会ったのでした。その中には蘇生という禁術があり……代償は、蘇らせたい相手に共通する贄だけ」
「だから、お前は……」
「そうだ、ボクはボクの妹を生き返らせるために人を攫ってきた」
全ては妹を蘇らせるため。
禁術に必要な代償を用意するために人を攫い、ついに『神隠し』と呼ばれてきた。
「そんなの妹さんは望んでいない……などと言ってくれるなよ? そんなありきたりなセリフは聞き飽きたし、あの子もそう言うだろうなとは分かっている。それでも、ボクは大切な妹を譲りたくない」
サラサのおぼつかない足がようやくアルヴィンの前へと立った。
「これが、ボクの目的だ。誰に責められても、地獄に落ちても、犠牲にしてでも成し遂げたいもの。どうだい、冥途の土産程度にはなっただろう?」
全ては妹のため。
どれだけ他人を傷つけても、己を傷つけても成し遂げたかった夢。
よっぽど、妹のことが大切だったのだろう。
そこの部分だけは……ほんの少し、少しだけアルヴィンも理解できた。
「さぁ、そろそろ幕を引こうじゃないか」
サラサは残っていた指をアルヴィンに向けた。
あとは、この指を失うだけで目の前の強敵はいなくなる。
「僕だって、譲れないものがある……」
だが―――
「……世界、構築」
アルヴィンの口が先に、微かに動く。
「
そして、世界が氷の硝子に書き換えられた。
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