神隠し、襲撃

 アルヴィンの魔法はあくまで対象が第三者に接触したことによって印が溶け、居場所を伝達してくれるというのもだ。

 伝達した際は微かに残った自分の魔力を追跡するだけの簡易的なものであり、大まかな座標しか分からない。

 とはいえ、大雑把な場所は分かる。

 このだだっ広い王都をくまなく探すよりかは遥かに効率的であった。


 しかし、アルヴィンが騎士団の面々を引き連れて場所にやって来てもセシルの姿は見当たらなかった。

 魔力の残滓はここにある。でも姿は見当たらない。そらは雲一つない澄み切った青空だ。

 となれば一体どこに?


 そんなの、地下に決まっているじゃないか。


「あなた馬鹿っ! もうっ、ほんとぉぉぉぉぉぉぉぉぉに馬鹿っっっ!!!」

「ごめっ……マジでごめんだから首絞めないで着地と呼吸ができな……ッ」


 そして、アルヴィン達は現在王都の端にある開けた広場の中心を―――していた。

 それもたったの数十秒ではあるが、レイラは一緒に落ちていくアルヴィンの首を怨敵を相手にした時のように絞めていた。


「どうして床を破壊するなんて考えるの!? 後処理とか周囲の被害とかどうするわけッッッ!?」


 探して見つからないのであれば、地下の入り口など再び探してもすぐには見つからないだろう。

 刻一刻と時間を争っている可能性がある以上、悠長に捜索などしていられない。

 そう考えたアルヴィンは容赦なく氷の塊を上空から地上に落とすことによって破壊した。

 幸いなのは周囲に誰もおらず、建物もなかったことだろう。

 もちろん、騒ぎになってしまうのは言わずもがな。


「で、でもさ……メリットも十分にあるわけでして……ッ!」

「早く助けに行けること以外で言え!」

「こういうヒーローの現れ方って普通は考えられないと思うんですよ、はい! だから―――」


 レイラが首を離した途端、二人は地面へと着地する。

 どれぐらい落ちたか? ざっと10mはあるだろうか?

 その時———


『なッ!? いきなり上が崩れたぞ!?』

『て、敵襲だッ!』

『人を呼べ! 早く!』


 アルヴィン達の正面に黒装束を着た人間が姿を現した。

 しかもその全員が戸惑いや驚き、焦りを見せており、満足に武器も持っていない状態であった。


「ちゃんと奇襲になったでしょ?」

「はぁ……そうだけど、もし攫われた人が下にいたらどうするつもりだったのよ」

「姉さんから離れたところを崩したから大丈夫だよ。もちろん、よく分からない敵さんにとってはお邪魔だったみたいだけど」


 アルヴィンはまず先にと土埃を払った。

 すると、タイミングよく背後に何人もの人影が降って現れる。


「アルヴィン様、流石にあとでお説教です」

「ほら」

「姉さんとソフィア達を助けられるなら甘んじて受け入れる……ッ!」

「お説教の時は大きな石を抱いてもらいます」

「待ってやっぱそれは流石に無理っ!」


 昔馴染みの拷問手段に、アルヴィンは思わず涙を浮かべる。


 とはいえ、こんなに悠長に話している暇はなさそうであった。

 奥にある通路、そこからぞろぞろと人の足音が近づいてくる。視界に入っていた人間も各々壁に立てかけてあった剣やら杖を手にして構え始めた。


「しかし、この方々は一体どこのどちらさんでしょうか? あまり歓迎されていないようですが」

「歓迎されることはないと思います、リーゼロッテ様。こいつらがソフィア達を誘拐したというのはどう考えても明白ですから」


 地下にある空洞。

 王都に地下があるとは知りもしなかったが、こんな場所に姿を現して問答なく武器を向けているのだ―――座標のことを考えても一般人だとは思えない。

 レイラとリーゼロッテはそれぞれ腰に帯刀していた剣を抜刀する。

 それに伴い、後ろにいる騎士団見習い達も一斉に剣を抜き始めた。


「まぁ、なんにせよ……」


 アルヴィンはその中で一人前へと踏み出す。

 たった一歩。

 その一歩を踏み出した瞬間、黒装束の人間目掛けて一斉に氷の波状が襲い掛かった。


「姉さん達は連れ戻させてもらう。立ちはだかるなら容赦はしない……出し惜しみなくで行く」


 氷の波状は黒装束の人間を飲み込んだ。

 そのまま氷のオブジェになっていく人間、かろうじて逃げおおせた人間、その人間に加わるように現れる人間。

 そんな敵を相手に、アルヴィンはふぅーっと白く冷たい息を吐いた。


(流石はアルヴィン様……やはり、その実力は異端ですね)


 リーゼロッテも魔法は扱える。

 しかし、この規模の魔法を一瞬にして放てるだろうか? 空間の地面一帯に広がり、容赦なく敵を行動不能に起こすことなど、自分にできるのか?

 今の一瞬だけで、目の前にいる人間の三分の一を無力化してしまった。

 無詠唱を習得しているとはいえ、この規模を行うには先の見えない努力と才能が必要になってくるだろう。

 自分には無理だなと、肩を竦める。


(敵にとっては悪夢でしょうが、味方であれば心強い……)


 リーゼロッテは口元を緩める。

 そして、後ろ目掛けて大声を発した。


「目標、被害者の救出! 及び王国騎士団の到着までの時間稼ぎ!」

『『『『『おうっ!!!!!』』』』』

「さぁ、皆様———暴れまくりましょう」

『『『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!』』』』』』


 その合図と共に、騎士見習い達は一斉に駆け出し始める。

 敵は『神隠し』の首謀者と思わしき集団。目標は攫われた人間の確保。


「行きましょう、アルヴィン」

「うん」


 レイラの声に促され、アルヴィンもまた足を進める。


「人攫いの悪党ども……誰を怒らせたか、絶対に目にもの見せてやる」



 公爵家の面汚し。

 異端の天才。


 そう呼ばれる少年の戦いが、今始ま―――

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