騎士団長
これから入団試験こそあるものの、まずは入団希望者の顔合わせから始まった。
この度の入団希望者はアルヴィン達を含めて十人。
現在の騎士団のメンバーが約三十人ほどと考えれば若干少ない人数であった。
『ジーンデルク子爵家三男、アレク・ジーンデルクです! 子供の頃から騎士に憧れて、ここで研鑽を積みたいと思い希望しました! よろしくお願いします!』
若者の元気のある声が響き渡る。
希望、期待、ちょっとした緊張に不安。こうして歳もあまり変わらないというのに、始まる時というのはいつもこのような感じだ。
目の前にいるのは、アカデミーでも騎士見習いとしても先輩。
だからこそ、皆の前で自分を見せるという場所では様々な感情が自分を埋め尽くす。
そんな姿に見ている方も活力が与えられる。自分達もこうだったな、懐かしいな、と。これからの期待の星に───
『Boooooooooo!!!』
『ケッ、野郎は帰れ!』
『お呼びじゃねぇんだよ、ガキが!』
『ママのおっぱいでも吸ってろ、カス!』
一斉にブーイングを始めた。
容赦のない職場である。
「ソフィアです、
何人かの自己紹介が終わり、いよいよ砂漠に現れたオアシスの番になった。
その様子は酷く緊張しており、上擦った声と可愛らしい仕草が自然と目を引いてしまう。
先程の入団希望者の少年とはかなり違う。期待というより「大丈夫か?」と思われてしまいそうな雰囲気があった。
『ひゅーひゅー!』
『ようこそ、我が騎士団へ!』
『俺達は君を心の底から歓迎する!』
『分からないことがあったらなんでも聞いてね!』
とはいえ、凄い手のひらの変えしようであった。
一斉にウェーブを始めたところが余計にも男女差別を如実に現している。
「えー……あー、アルヴィン・アスタレアです。よろしくお願いします」
そして、いよいよ最後のアルヴィンの自己紹介が始まった。
とはいえ、簡潔にクソだるそうに言うアルヴィン。横にいるソフィアや期待で満ち溢れていた入団希望者達とは大違いである。
しかし───
『よっ! 待ってましたアルヴィンさん!』
『ようこそ我が騎士団へ!』
『アルヴィンさん、もうちょっと元気出してくださいよー!』
『俺達と一緒に頑張りましょーぜ!』
『きゃー! アルくん今日もかっこいいよぉー!』
肉体言語で仲良くなった騎士団の皆はアルヴィンを歓迎する。
しっかりと内々で上下関係が構築されてしまったみたいだ。
一人、何故か黄色い歓声が生まれたのは気にしなくてもいいだろう。
「チッ」
一方、騎士団の中でも副団長であるルイスは気に食わなさそうに舌打ちをしていた。
それも当然、唯一の普通人であるルイスからしてみればやる気のない態度など叱責もの。
だが、以前一撃で吹き飛ばされてしまった過去があるが故に中々表立って文句は言えなかった。
「あ゛? 今、アルくんに舌打ちしなかった?」
「急に怖い顔にならないでくれます?」
それに、隣に弟溺愛中のお相手がいるのだから余計にも何も言えない。
ここで何か言おうものなら、副団長の立場関係なく実力が上のセシルやアルヴィンに狙われてしまうからだ。
「はいはいーい! ここで入団希望者さんの自己紹介も終わったねぇー!」
鋭い瞳から急にいつもの調子の戻ったセシルが入団希望者達の前へ出る。
「まずは皆さん、騎士団に入団を希望してくれてありがとう! 私は副団長のセシル・アスタレアです! そして、アルくんのお姉ちゃんでもありますどやぁ!」
いらねぇ情報だなと、アルヴィンは思った。
「これからよろしくね───って言いたいところなんだけど……皆も知っての通り、騎士団って危険なお仕事でもあります。生半可な気持ちで来てはないと思うけど、どうしても実力にそぐわなかったら敷居を跨がせるわけにはいきません」
セシルの真剣に変わった声が入団希望者達の耳に届く。
命の危険がある以上、上の立場にいる者として安易に責任を背負うわけにはいかない。
それは入団希望者も分かっているからか、皆一様に緊張した面構えで聞いていた。
「だから、我が騎士団恒例行事───入団試験を今から始めちゃいます!」
『『『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!』』』』』
入団希望者達とは反して、セシル率いる騎士団達は盛り上がりを見せる。
恒例行事というわけだから、ここにいる騎士団の面々は当然今まで入団試験をクリアした者達だ。
加えて、今回はする方ではなく見る方。だから彼らの中ではちょっとした催し気分なのだろう。
「あ、あのっ! 入団試験って何をやるのでしょうか?」
おずおずと、ソフィアが手を上げて質問を始める。
セシルは「いい質問だね♪」と、にっこりと笑顔を浮かべた。
「その前に、紹介しとかなきゃいけない人がいるんだけど───って、噂をすればようやくお出ましだ!」
セシルが顔を入口の方へと向ける。
それにつられるように、入団希望者達も一斉の視線を向ける。
そこにいたのは、艶やかな銀髪を靡かせる少女。
凛々しく、気品がありながらもどこか幼げの残る雰囲気に、可愛らしく端麗な顔立ち。
そんな少女を見た途端、入団希望者達は緊張から一変して戸惑い始めた。
どうしてこの人がここに?
誰かがそう言ったのを耳にする。
(おいおい、嘘でしょ……)
それはアルヴィンも同じ。
何せ───
「ご紹介します! 我がアカデミーの騎士団の長……加えて、この国の第二王女でもある、リーゼロッテ・ラレリアですっ!」
この国の王族、その人だったのだから。
「もう……そういう紹介の仕方はやめてくださいと言ったではありませんか、セシル。恥ずかしいです」
「だって、リゼちゃんが遅く来たんだから仕方ないじゃん!」
「単に講師の人に呼ばれていただけなのですが……」
そう言って、リーゼロッテは騒がしい友人にため息を吐く。
まさか騎士団の団長が第二王女だったとは。今まで確かに騎士団の団長については名前が公表されていなかった。
基本、表にはセシルとルイスが立ち、団長というのは不可思議な存在というのが入団希望者の認識。
だが、それにしても開けた宝箱が豪華すぎる。
「話は戻すけど、なんと入団試験は『団長に一撃当てる』こと! 言っておくけど───」
セシルはドッキリでも成功させた子供のようないたずらめいた笑みを、入団希望者に向けた。
「リゼちゃんは私よりも強いよ? だから皆……気合いを入れて血反吐を吐きながら頑張ってね!」
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