騎士団と魔法師団

 ───それから、アルヴィンはクラスで話題の的であった。


 実力の片鱗を見てしまった。

 その実力は同じ魔法士を目指す者であっても「敵わない」とすぐに思ってしまうもの。

 まともな神経をしていれば、もう「無能」などと馬鹿にできない。

 とはいえ、やはりそれは見た者にしか分からない事柄だ。

 クラスの生徒が別のクラスにいる友人に伝えても「冗談だろ?」と言われてしまう。


 しかし、それはそれで好都合だと思う生徒は何人かいた。

 誰も近寄ろうとしないなら、自分が近寄りやすくなる。

 アカデミーは己の成長を育む場所でありながらも交友を広げる社交の場でもあるのだ。

 今まで馬鹿にしても問題なかった人間が、実は馬鹿にできないほどの実力を持っている。

 立場も擦り寄るに相応しい公爵家。

 なんとしてでも伝手を残そうと思ってしまうのは無理もない話。


 だが、今のところは誰も声をかけようとする者はいなかった。

 何せ、今日一日……終始爆睡していたからである。


「アルヴィンさん、アルヴィンさん」


 そんな中、ようやく一人の生徒が寝ているアルヴィンに声をかけた。

 アルヴィンはその声によって目が覚めたのか、ゆっくりと顔を上げる。


「目の前に天使……もしかして僕はついにエデンへと……」

「もうっ、まだねぼすけさんなんですか?」


 頬を膨らませる天使……もとい、ソフィア。

 それがなんとも可愛らしく、アルヴィンはこれ以上ないぐらいにだらしない顔をしていた。


「終わっちゃいましたよ?」

「僕の三年間もこれまで……」

「卒業っていう意味じゃないですからね!?」


 何やら可愛らしい声を聞いていると、徐々に目が覚めていったアルヴィン。

 ようやく辺りを見渡して現実へと帰ってきた。


「あ、授業終わったんだ」

「ずーっと寝てましたよ、アルヴィンさん。授業中に居眠りはよくないと思いますっ!」

「そっか……ソフィアはちゃんとしてて偉いねぇ」

「えへへっ、そんなことは……ハッ!」


 唐突に子供扱いされたことに気がつくソフィア。

 世の中にはこんなにも可愛らしい女の子が実在したのだと、アルヴィンは遅くもその事実に気がついたのであった。


「だったら、騎士団のところに行かないと行けないなぁ」

「ふぇっ? アルヴィンさんも騎士団に入られるんですか?」

「よくある話だと思うんだけど、ちょっと身内から脅迫されたんだ。それで入ることに」

「……どれだけ身近に脅迫があるんですか?」

「大丈夫、命の危険はないから!」


 ただ、家庭内崩壊を誘発されているだけである。


「……ん? でも、「も」って───」

「ふふんっ! 実は私も騎士団に入ろうと思っているのです!」


 アルヴィンは胸を張るソフィアを見て首を傾げる。

 はて、彼女は珍しい回復担当の魔法士ではなかっただろうか?

 そんな疑問を抱いているアルヴィンを見て、ソフィアは説明を始める。


「別に魔法士だからといって、騎士団に入れないわけではないんですよ? アルヴィンさんだってそうじゃないですか」

「いや、僕は一応両方いける口だから……」

「アルヴィンさんはもう少しやる気を出してもいいと思います」


 本当に宝の持ち腐れだと、ソフィアにしては珍しく内心で愚痴を零した。


「私の場合は回復支援が主ですので、正直どこに行っても需要があります。前に出て誰かを守るお役目がある場所では、必ず怪我人は出てしまいますから。もちろん、騎士にはなれませんが」


 簡単に言ってしまえば後方の仕事をするために入るということだ。

 後方を必要としない部隊はない。騎士団然り、魔法師団然り、誰だって前に出て戦うのであれば怪我というのは切っても切れないもの。

 そうしたサポートをしてくれる人間は貴重な人材であり、引っ張りだこだったりする。

 ソフィアはそういった部分に当て嵌るため、騎士団に加入しようとしているのだろう。


「私、借りた学費を返すためにもお仕事をしなくちゃいけないんです。騎士団に入ると、一定額のお給金がいただけますので!」

「でも、それだったら魔法師団でもいいんじゃない? 一応あるでしょ、アカデミーが抱えてある魔法師団。そっちの方が魔法の勉強にもなるんじゃない?」

「私も考えたんですけど、やっぱり騎士団の方が規模が大きいのでお給金もいっぱいもらえるので……」

「なるほど」


 アカデミーが抱えている魔法師団は意外と規模が小さい。

 そもそも、魔法は魔力によって才能が左右されてしまうため、魔法士という人間が貴重だからだ。

 加えて、魔法士は後ろから敵を屠る立ち位置。

 仕事も限られるし、やはり一番前に出る騎士団よりかは稼げるお金も少ない。


「それに、私の知り合いがいるらしいので」

「へぇー、それなら安心だね」

「私の知り合いは凄いんですよっ! あっという間に相手の肩関節を外せます!」

「僕はソフィアが心配だよ」


 安心する要素がピンポイントすぎる。


「しかもアルヴィンさんも一緒だと聞いて、不安が一気になくなりました!」


 あらヤダ眩しい。

 いっぱいの笑顔を浮かべるソフィアを見て、アルヴィンは思わず目元を押さえてしまった。


「ということなので、一緒に行きませんか!? 今日は騎士団の加入希望者を集めて説明会をするみたいなので!」

「だから僕も呼ばれたのか……了解。それじゃあ一緒に行こうか」


 正直、行くのは面倒くさい。

 今すぐ帰宅して遊んだり寝ていたりしたいのだが、横にソフィアがいるとなると少し憂鬱な気分も晴れた。


 アルヴィンは軽くなった足を動かしてソフィアと一緒に訓練場へと向かうのであった。



 ♦♦♦



 訓練場に着くと、すぐさま知り合いを見つけたソフィアが駆け出した。


さんっ!」

「あら、ソフィアじゃない。やっぱり騎士団に入るのね」


 とりあえず世間って結構狭いよね、と。アルヴィンは思った。





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