第5話 研修開始!
あれから本当にアルアリスさんの言った通り2週間すべて勉強に費やした。しかもその間は食事と睡眠以外の時間はほとんどが勉強で、一応たまに休憩を貰えたが5分程だった。
でも、勉強したから分かるがアルアリスさんは教え上手だからこそ2週間と言う期間で終わったが、普通に教えようとすれば2週間で覚えられるような内容の濃さではなかった。他にもアルアリスさんが言うには神になった影響で身体能力や記憶力も上がっているようで、そんないろいろを考慮しての2週間という期間だったそうだ。
そして勉強を終わらせた俺は予定通りアルアリスさんの案内で、ある場所へと向かっていた。
「これから向かう場所は神々にとって…そうですね。分かりやすく言えば役所に近い場所でしょうかね?これから様々な部署で適性を見るためにも『研修』と言う形で体験してもらいます。正直部署が多いので、ひとつの部署に居るのは1日程度で本当に体験と言う形になると思うので理解しておいてください」
「はい、わかりました。それで一番最初に行く部署ってどういうところなんですか?あとできれば幾つの部署に行くことになるのか教えてもらえると…」
「そうですね。最初に研修してもらうのは『死神課』と呼ばれる部署になります。もう既に名前から予想が付くとは思いますが、死者の管理及び悪霊になった魂の回収を主な仕事としています」
「あぁ~思っていたより結構しっかりした仕事なんですね。もう少し怖い、死ぬ人を決めたりしているのかと思いました」
説明を聞いた俺は素直に思った感想を言った。なにせ死神と言えば死ぬ人間の元に行って魂を刈り取る!みたいなイメージがあったが、話を聞くと呼ばれた場所に荷物を取りに行く宅配便のような仕事だった。
「ふふふっ!確かにそのようなイメージの人の方が多いようですが、魂はあなたも知っていると思いますが魂魄の間で基本的には一括管理されています。更に人の死期に関してはどちらかと言うと運命神の管轄ですからね。それと今回行く部署は数が多かったのですけど、6つまで絞る事ができました」
「6つですか…その数ならもう少し日数を増やしてもいい気がしますけど」
「数は少ないですけど神の仕事は密度が高いので、1日だけでも初めての方には大変だとの判断です。特にあなたは元々は人間ですから、肉体的には平気でも精神的にはまだ慣れていないでしょう?」
「そう言われると確かに…」
人間だった時の記憶はほとんどないけれど俺の基本的な常識や倫理観は人間基準になっているところが多いように自分でも感じる。この数日アルアリスさんに教えてもらって神界に感覚が馴染んできたようには思うけど、どうしても生まれ持つ感覚と言うのには引っ張られてしまうようだ。
そうして自己分析しながら納得していると急にアルアリスさんが足を止めた。
「到着しました。ここが死神課の部屋になります。私も中までは付き添いますが、そこで一旦分かれて終わったころに迎えに来ますので理解しておいてください」
「わかりました。本当に何から何までお世話になりっぱなしで、少し申し訳なく感じちゃいますね…」
「別に気にしなくていいですよ。私も初めての後輩に少し過保護になっているようですから」
優し気な笑みを浮かべてアルアリスさんはそう言ってくれた。ただ扱いがちょっと後輩と言うよりも弟と言う感じがして俺は少し反応に困ってしまい苦笑いを浮かべて誤魔化した。
そんな風にちょっとした世間話をしながらどれくらい歩いたか、ふいにアルアリスさんが足を止めると目の前にいかにも死神!と言ったレリーフの施された扉があった。
「ここが死神課ですね」
「ふふふっ!確かにここまで分かりやすい扉も珍しいですね。でも迷う事が無いので便利でもありますよ?」
「あ、そう言われると確かに…って、すみませんこんなところで止まらせてしまって」
「別にかまいませんよ。下手に緊張して入るよりも、少しでも気楽に入ってもらったほうがいいですからね」
無駄に足止めしてしまった事を謝罪するとアルアリスさんは笑顔で受け入れてそう言うと、両開きの扉を勢いよく開いて中へと入った。
正直いきなり扉を開くと思っていなかったので驚いたけど時間も経っているので仕方がないか。ただせめて開く前に一言欲しかったかな。
そう思いながら開いた部屋の中を見ると黒い机に壁には、いかにも死神の使いそうなデスサイズと呼ばれる大鎌がクロスするように複数釣られていた。それ以外は少し薄暗くはあったが雰囲気のあるバーのような感じで居心地は決して悪くはないのだが、これまた黒いデスクで書類の整理やパソコンのような物を使っている存在が場の空気を消し去るほど不気味だった。
なにぜ全員がほとんど骨の体か黒い不定形がローブを着た人の空想が現実化したようなザ・死神!と言う者達ばかりで、しかも全員が何か不気味な力を常に纏っているのだ。
そんな周囲に少し気圧されてる俺とは違ってアルアリスさんは気にした様子も無く背筋を伸ばし、この部屋の中でも更に異彩を放つ奥の巨大なデスクへと進んでいた。その後姿になんか怯えている俺が場違いな気がしてくると自然と恐怖心はなくなってゆっくりと後を追う。
「お久しぶりです死神長【デス】様」
「おう、久しぶりだな。その後ろのが数千年ぶりの人間上がりか?」
巨大なデスクに座る存在はとにかく巨大で見えている上半身だけでも3mは軽くありそうだった。でも顔は普通で黒い髪を少し整えていないボサボサのままで、顔は見る人にキツイ印象を与えるつり目の女性だった。服装は他の職員?達と同じような死神を象徴するようなローブを身に纏っていた。
しかも目の前にしているだけで息苦しく感じるほどの力を常に放っていた。
ただアルアリスさんは特に気にした様子も無く挨拶をしていて、続けて俺の紹介まで始めていた。
「はい、彼が新神になります。まだ属性判断などしていないので神名がないため不便とは思いますがご理解いただけると」
「あぁ~そう言いう固い話はどうでもいい。とにかく今日一日面倒見ればいいんだろ?」
「はい、ただ初めてなので無茶な仕事を押し付ける…なんてことはしないようにお願いします」
「一々言われなくてもわかってるよ。だいたい素人に楽できるほどの仕事なんて回せられるわけ無いだろ…」
一応くぎを刺すようにアルアリスさんが一言言ってくれたが、死神長と呼ばれたこのデスと言う女神はぶっきらぼうに聞いている側も納得できる返答をした。確かに専属の仕事をしている場所で職員が楽できるほどの仕事を1日体験に来ただけの奴に任せられるわけがない。
「それよりも新神のお前はなにか言う事はないのか?」
「え、あぁ…今回は1日と短い間ですがお世話になります」
「おう!挨拶はどんな世界でも一番の常識だからな。他の部署に体験しに行く時も忘れないようにしとけ」
「確かにその通りですね。わかりました!」
見た目や話し方の印象とは裏腹に結構気さくでいい人のようで俺が答えると満足そうに笑顔で頷いていた。その表情は何処か親のような暖かなものが溢れているように感じて、もちろん俺の勘違いかもしれないけれどすこし緊張が解れた。
そうして俺が肩から力が抜けたことに気が付いたのかアリアさんとデスさんの2人はお互いに頷き合っていて、その様子を見て何となく2人が俺の緊張を解すために軽く会話してくれていた事に気が付いた。
「ありがとうございます」
「ふふふ!何のことでしょう?」
「そうだな。別にオレ達はただ話してだけだからな」
自然と漏れたお礼の言葉に2人は少しとぼけるように笑顔を浮かべてそう言った。おかげで最初の緊張は綺麗になくなり、真面目で緊張感のあった空気もどこか解れたように感じた。
それをアルアリスさんやデスさんも分かっているようでゆっくりと話を本題へと切り替えていく。
「とりあえず今日1日お前の面倒を見ることになった死神長のデスだ。変な名前とか、そのままだな!とかはスルーしてくれ…正直俺も変えられるなら変えたい」
「あ、いえ、名前すらまだない自分よりはいいと思いますよ?」
デスさんはなにか自分の名前を気にしている様子だったが俺に至っては名前すらろくにないのだ。
俺が自虐も込めてそう言うとデスさんは驚いたように小さく目を見開いてこちらを見ていた。
「…そう言われればそうかもしれないな!」
「それよりも死神課の一番偉い人なのに課長ではなく長だけなんですか?」
「それは単純なことだ。一応わかりやすいように『○○課』って名前にしているが、別にそんな名前に誰もこだわってないから各々好きに名乗ってるだけだ!オレは長って呼ばれるのが好きだからそうしている」
なんとなく話の流れで気になっていた事をついでに聞くと、思いのほかくだらない理由だった。まさかここまで適当に決めているとは思わなかった。
そうして俺が唖然としていると何を考えているか分かったのかアルアリスさんが笑っていた。
「ふふふっ気持ちは分かりますよ。私が初めて聞いた時も、それでいいのかな?とおもいましたからね。とりあえず神界では基本的には深く考えずに、ありのまま受け入れるようにすると楽ですよ」
「今後はそうするようにします」
何と言うか経験からなの少し疲れを滲ませるアルアリスさんのアドバイスに今後は気を付けようと決めた。
とりあえず他に気になっている事はこれでなくなったので、その後は特に話す事もないので最後にアルアリスさんが一先ず別れの挨拶をする。
「それでは今日の夜にでも迎えに来ますので、私はこれで…」
「おう!任せておけ、こいつはオレがちゃんと面倒をみておくからよ」
「はい、そこに関しては信用してますので…それでは」
最後に丁寧にそう言って頭を下げてアルアリスさん死神課の部屋から出て行った。
それを見届けて俺はデスクに座ったままのデスさんへと振り返った。
「では、改めて今日1日よろしくお願いします」
「こっちこそ数百年ぶりの新神だからな。丁重に扱うさ」
改めて体験の挨拶をするとデスさんは楽しそうに笑みを浮かべてそう言った。それと同時に話している間は静かに仕事をしていた先輩神に当たる死神の方々が一斉に押し寄せて来た。
「おぉ~!これが新入りか‼」
「本当に元々は人間だったのか?」
「知らねぇ~それよりも力はどんなんだろう」
「コノあとシゴトできるかが気になる…」
「ちょ⁉集まらないでっ」
さすがに死神の方々は見た目のインパクトがありまくりなので近距離で見るのはさすがに堪える。しかし俺の言葉よりも集まって来る死神たちの方が数も多く、なにより人間から神になった存在と言うのが珍しいためか勢いもすごくて俺の声はかき消された。
そうして俺がもみくちゃにされながら助けを求めるようにデスさんを見ると、視線には気が付いた様子だったが楽しそうにいい笑顔でサムズアップするだけだった。おかげでしばらく死神達に囲まれ質問攻めにされると言う、なかなかに恐怖心の煽られる経験をすることになった。
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