第4話 神の基礎
白い塔【ガーデンズ・コア】の中に入ると外観と同じように純白の壁が続いていた。しかも明かりを放つ物は見当たらないのに、不思議と全体が優しい暖かな明かりに満ちていた。
通路も巨大な神でも居るのか幅と高さが異常に高くて広い。
そんな通路をアルアリスさんは慣れた様子でスタスタと進んで行く。周りの光景に少し圧倒されていた俺も少し遅れながらも慌てて追いかけたが、周囲が白一色なのでちょっと眩暈がしてきた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい…ちょっと色に酔っているだけです…」
「確かに、ここまで白いと目に来ますよね。後少しで着くので頑張ってください」
「はい!」
そうやって励まされた俺は何とか眩暈と戦いながら進むとアルアリスさんの言葉通り、ほんの数分程歩いたところで何かの部屋に入った。すると今までの真っ白な光景が嘘のように質素な木造の部屋になっていた。
部屋の中心にはそこそこの大きさのソファーとテーブルがセットされていて、奥にはいくつもの本が丁寧に並べられた本棚が3個並んでいた。他にも扉が3つあるので何か部屋が続いているのだと思う。
そうして部屋の中を見回しているとアルアリスさんが淡々と説明を始めた。
「まずは神としての基礎をここで勉強してもらいます。見てわかると思いますが、奥の扉にはお風呂・調理場・ベットが用意されていて、研修中はここで生活してもらう事になります」
「え、こんな広い部屋を1人で使ってもいいんですか?」
「何を言ってるんですか?研修が終わって、本格的に神として認められると自分の領域を持つことになるんですから。そうなれば部屋どころか城や山に神殿などに住むことになるんですからね?」
「あぁ…神になるってそう言う事でしたね」
新神?が使うには広い部屋だと思ったけど、そう言えば他の神様達は自分達が過ごしやすい領域で生活するんだった。つまりは俺も神として活動を始めれば領域を持つことになるって事だ。
確かにこの部屋のレベルで驚いていたら、これから先やっていけそうにないからな。
そうして俺が完全に頭を切り替えたことに気が付いたのかアルアリスさんは説明を始めた。
「納得してもらえたようですね。最初は神としての基礎とも言えることから教えますので、気になることがあれば遠慮なく質問してください」
「わかりました」
簡潔な説明に俺がすぐに頷くとアルアリスさんは納得したように小さく頷いて、棚の方から数冊の本を持ってソファーに座った。
それを見て立ったまま勉強するのではないと気が付いて慌てて俺もソファーに座る。
「まずは神にも色々な生まれに階級と言う物が存在しています。これを見てもらうと分かりやすいと思います」
「ありがとうございます。えっと『誰でもわかる神界!入門編』……」
渡されたので何も考えずに受け取ったがデフォルメされた天使の絵に、こんなタイトルでさすがに衝撃を受けた。完全ではない朧げにある生前の記憶のせいかも知れないが、神界に来てまでこんな題名でコミカルな表紙の本を見ると何とも言えない気分になってしまう。
そんな俺を見て何を考えているのか分かったのかアルアリスさんは優しい声音で説明してくれた。
「複雑な気分になるのはわかります。ですが中身は本物なんですよ、表紙は…ちょっと悪ノリした方が多かったようでそうなってしまったのです」
「な、なるほど、とりあえず内容に問題が無いならいいんじゃないですかね!確認させてもらいますね」
「はい、内容はちゃんとしているので安心してください」
念を押すように力強くそう言ったアルアリスさんを見て俺は安心した俺は本を開いて読むことにした。
『この本は初めて神に成った者、神界に訪れた者に神と言う存在を分かりやすく伝えるために作った。読んでいる者がどんな理由で読んでいるかは知らないが、神界で生活するつもりがあるならしっかり読むことを勧める』
『まずは神と言う存在の生まれについて説明して措こう。神の誕生は大きく分けて3つ!存在する。1つ目は生まれついての神、いつから生まれたのか?なぜ生まれたのか?本人も分からないが、生まれた瞬間から神だった存在だ。この最初から神だったものは総じて強力な力を持っていることが多いので、もし関わることがあっても喧嘩は売らないように注意した方がいいだろう。
2つ目は他の生物からの信仰から生まれる神がいる。このパターンは特殊で信者からの信仰心を元に存在しているため状態が不安定で信者が減れば消滅の危険があり、運よく消滅しなくとも暴走しやすい側面を持つ者が多い。ただし存在している間に己で存在を確定させることが出来れば信者が居なくとも暴走や消滅する危険はないと判明している』
『そして最も珍しいのが3つ目の他の生物が神へと昇華した存在だ。今までも数えるほどしか確認されたおらず、選定の基準も善人であると言う事しか判明していない。ただ後天的に神へと昇華した存在は総じて特質した特徴を持つことが多く、力のコント―ローが出来るまでは器用貧乏になる傾向がある』
『この3つが神の生まれ方だ。もしかすれば他にもあるかもしれないが、だいたいの神はこの3つの法則のいずれかで生まれる。再度注意するのは1つ目の元来からの神、そう言った存在はとにかく力の桁が違うので下手に関わらないように気を付けろ』
本を開いたと同時に1ページ全部使って書かれていたのは神と言う存在の成り立ちとそれに関する注意事項だった。ただ良く読むと結局のところは『生まれつきの神は強いから注意しろ!』と言うところに集約されるようだ。
「ふぅ…つまり俺はもっとも珍しいパターンだったんですね」
「そうですよ。何度も言いましたが神として生きていても滅多に会う事のない程の、まさに奇跡と言ってもいい程の確率でしか現れないようですね。特に人型の生物から神に成った者は極端に少ないようですね…調べた限りですけど」
「そうだったんですね。でも奇跡的に生まれた存在って言われると困惑もしますけど、少し嬉しくもありますね」
なにせ神に成れるのは他生物と言う事は人間以外の生物も範疇なのだ。そんな中であまり人間立った認識はないけれども、他の生物を抜いて俺が神になったと言うのはやはり嬉しく感じる。
「ふふふ!そう言う考え方もありますね。とりあえず今は続きも読んでおいてくださいね?他の説明をするにも、階級についてだけはちゃんと把握しておいてほしいですから」
「わかりました。しっかり確認します‼」
まだ少しテンションの上がっている俺は無駄に元気よく答えていた。それにすぐに恥ずかしくなったがアルアリスさんの顔を恥ずかしくて今は見れないので、言われた通りに本の続きを確認することにした。
『1:神の階級について
他の生物のように明確な階級が神にも存在している。階級は【信者の数・権能・知識】と言う3つの要素から判定されて、上から順に【創造・幻想・世界・自然・土地】と言う5つの階級に分かれている。この名称からわかるかもしれないが基本は階級の後ろに神の一文字を足して呼んで、それが下界にも漏れたようで人間達が呼ぶときにも使われるようになっていた』
『ただこれだけだと分かり難いとは思うので階級ごとに説明しよう。まずは低い順で【土地】だが、これは神になりたての者達の階級で小さな土地の管理程度の力の持ち主と言う事になる。全体的に力も弱く、存在も不安定な者が多く一番入れ替わりが激しいのがこの階級だ』
『次は【自然】について、すでに予想が付いているかもしれないが自然の現象1つを司る事ができるほどの神という事だ。この階級は判断される範囲が一番広いために司る属性はいろいろで、例えば『嵐』という現象を司る神は文字通り雷を起こし、大雨を降らして暴風を吹かせてそれを操る事ができる。でも逆に『そよ風』という微妙な現象でも司る神が産まれることがあるのだ。これは司る現象が選べずランダムであることが原因なのだが、やはり元々の力の強い者は強力な現象を司る事が多いのが検証で判明している』
『次に【世界】についてだが…これは文字通り世界を管理する事ができる力の持ち主と言う事の証明だ。この階級に着いた時点で1つか2つは管理する世界を任されることになる。その世界では自分を優位つの神として崇めさせることが出来るため、この階級の神は存在が安定するため神としての力も比例して強大になる』
『次に【幻想】は少し特殊だ。この階級になるためには複数の世界の管理は当然として、生物から神として認知されると同時に『一定以上の生物から認知されながら信じられない』と言う矛盾のようなものを抱えることだからだ。しかもこの条件は神にはどうする事も出来ず、管理する世界で生活している生物達の変化に任せる必要がある。そのためこの階級に上がる事ができるのは【世界】まで上がった神の中でも少数で、数百年に1~3柱でも出てくれればいい方といえる』
『そして【創造】だが、ここまで来ればすでに理解しているとは思うが世界を創り出せる神だ。この階級まで上がった神は神々の中でも格別強力な力を持ち、世界を始めありとあらゆる物を創造する事ができる。それは生物であったり、新たな法則であったりとその神の力の許す限りのあらゆることが出来るようになる。ただ強すぎる力ゆえに神界では色々と規則を設けられて、少し不自由を感じることがあるかもしれない。それ故に【創造】の階級にまで上がった存在は好き勝手するための世界を1つは創っている』
『最後になるが今までに説明した階級だが、これは神の出来ることや力の大きさを明確に認識するために設定されたものだ。なので別に上の階級の言う事に絶対服従!などと言ったような制度ではない、その事だけはしっかりと覚えておいて欲しい。階級があるとなにかと優越感に浸る者・劣等感を抱く者などが出てきてしまう、なのでここでは新たに神界で生活することになる者に言葉を送ろう『力を持つ者は力を持つが故の苦しみと責任が存在する。力を持たぬ者は至らぬが故の可能性が無数に存在する。ゆえに2つは比べることはできず、比べる必要すら存在していないのだ』…以上、この言葉が読んでいる君のためになることを願う』
そこまで読んで俺は一度本を机に置いて上を向いて考える。
(…神と言っても性質は人間に近いのか。いや、逆か…人間の姿が神に近いのと同じように、精神も近くなっているのかもしれないな)
「どうやらちゃんと内容を理解して読んでくれたようですね」
「⁉」
考え込んでいたら俺の様子を見ていたアルアリスさんが安心したように頷いて声をかけて来た。その声を聞いてアルアリスさんが居る事を思い出した俺は慌てて正面を向いた。
「は、はい、かなりためになる内容でした。少し長くて理解しずらいところもありましたけど…」
「ふふふっ!これを書いた方は少し口数の多いのが特徴ですからね」
「そうだったんですね。あと失礼かもしれないですけど、アルアリスさんは階級は何処なんですか?」
読んでいる時からずっと気になっていた事を失礼かもしれないとは理解していたが、どうしても聞きたくて質問してしまった。だが後悔は特にしていない。
それでも不快にさせていないかアルアリスさんの顔を確認すると、むしろどこか楽しそうに笑みを浮かべていた。
「別に失礼でも何でもないですよ?このあと教えるつもりでしたからね。私の階級は【世界】です。一応これでも3つの世界を管理しているんですよ?」
「なっ…そんな凄かったんですか」
「特にすごい事はしていませんよ。私がしているのは世界の維持管理で、そこまで大変と言う訳でもないですからね」
まさか複数の世界を管理しているとは思っていなかったので俺が素直に感想を言うと、アルアリスさんは何処か恥ずかしそうに口元を引く突かせながら謙遜する。
でも感情が出難いのは変わらないようで、一瞬で真剣な表情に戻るとゆっくりと話し出した。
「ここでの勉強が終われば貴方もいろいろと研修に行くでしょうし、その時にでも私の世界管理の様子も見せることがあるでしょう。ただ今は目の前の勉強に集中してくださいね?まだ本当に基礎の基礎と言える段階ですから。この後に神界での禁則事項など覚えることは膨大ですよ?最低でも2週間は勉強でつぶれると思ってください」
「りょ、了解です‼」
真剣な様子で放してくるアルアリスさんの雰囲気に気圧されて俺は敬礼して答えていた。
すぐに敬礼は止めたが反射とは言え恥ずかしくてうつむいていたがそんな事は気にする余裕などないほど忙しく成る事を、この時の俺はまだ知らなかった。
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