第21話 敗戦原因についてのユーフォルビアの名推理
ユーフォルビアはああ言ったが、国王夫妻の反応は国民以上に冷淡なものだった。
こってり絞られると覚悟していたのに拍子抜けし、もう何の期待もされていないからだと悟る。
王や諸侯に相談もせず兵の数だけで勝てると自惚れ、理のない戦争を仕掛ける国にとって命取りになりかねない第一王子より、まだ五歳の第二王子を従順な性格になるよう育てた方が安全なのだ。
(終わった。まず間違いなく廃嫡、後は四年間この女を大事にするしかないか……)
夫婦の私室でソファに沈み込む崖っぷち王子の前に、妃が自らワゴンを押してくる。
「殿下、お茶をどうぞ」
「変わった匂いだな」
「疲れが取れるハーブティーよ。
カモミールの香りのする優しい口当たりのお茶だった。ハーブなど雑草と思っていたが、不思議と気持ちが穏やかになる。
「……なあ、俺がいない間に何があったんだ?」
自分でも驚いたほど、落ち着いた声が出た。
「あたし、
お茶を噴き出さなかったのは落ちぶれたりとは言えイケメンを冠する王子様の意地である。
ユーフォルビアは静かに事の次第を語り出した。
指輪に仕込んだ毒をお茶に混ぜたこと、あっさりと見破られたこと、グリムヒルドが毒を飲んでも死ななかったこと――
「どうして見破られたのか教えてもらって、それから一所懸命お勉強したの。騎馬隊の馬が全滅した理由も、今なら何となく分かるわ」
「何だと?」
身を乗り出す王子にあくまでも推測だと前置きして、ユーフォルビアは口を開いた。
「ストック村ではスイートピーを栽培してるのよね。スイートピーの種には毒があって、手足のしびれや麻痺を引き起こすの。弱いものなんだけど、馬はスイートピーの毒に対する感受性がずば抜けて高い生き物なのよ。
“妖精”は馬番が……その……何かに気を取られている間に、餌にスイートピーを混ぜたんだわ。もしかしたら水桶にも。疲れていた馬は飼葉桶の底まで舐め尽くすように餌を食べるって見越してのことじゃないかしら」
まるで見てきたように語るユーフォルビアに、王子は二の句が継げなかった。
「お義母様が教えてくれたわ。戦いはできる限り避けなさい。もしどうしても戦わなければならなくなったら、敵の弱点を突くのは二番目、一番は敵の武器を潰すことを考えなさいって。
だからまずは馬、あの大きくて頑丈な生き物を短時間で全部行動不能にするにはどうしたらって考えて、状況とストック村の地理や歴史を調べたら、これが一番無理がなかったの」
グリムヒルドの言葉が脳裏に甦る。
(魔女は味方につけておいた方が得だとは思わなくて?)
「二番目は風紀の緩みよね。あなたの軍、強いけどモラルがないわ。戦争には略奪と女性への乱暴が付き物だけど、それは最低の行為。規律がしっかりした軍だったら可愛い妖精にここまで付け込まれたりしなかったわよねえ? ……あなたも女の子に手を出したんでしょ?」
ギクリと王子の背中に嫌なものが走った。これは怒っていると本能で知覚した。
頬を膨らませて拗ねる仕草は子供っぽかった頃のままだが、その内容の深さは比べ物にならない。
「……王族だもん、側室や愛人は……嫌だけれど認めなきゃならないのよね……」
グリムヒルドなら薄っすらと底冷えのする笑みを向けてくるところだが、ユーフォルビアはしょんぼりと悲しそうにしている。落とした細い肩に手を置こうとした瞬間だった。
「だけど気まぐれであちこち手を付けるのは許さないわよ! 火遊びなんかしたら実家に帰らせていただきます!」
「わ、分かった! 浮気はしない、約束する」
「嬉しい。あたしも殿下一筋です」
一転して顔中で蕩けるように微笑む目の前の女は、若いとは言え魔女だった。
「ユーフォルビア、すまなかった。俺はお前の人生を狂わせ、国にも取り返しのつかない傷を付けてしまった。一生後ろ指を指されて生きることになる。……そんな俺に味方してくれると言うのか?」
「はい、喜んで」
偽りの求婚のときとまったく同じ言葉ではあったが、遥かに重みのある承諾の一言だった。
ユーフォルビアの顔を見る度、敗戦の屈辱や絶望を忘れる日はないだろう。グリムヒルドに対しても酷いことばかりしてしまった。彼女だけでなく多くの人を苦しめた。
その報いとして自分の卑劣さと向き合わされた。これからは悔恨に毎日責め苛まれ、眠れぬ夜も過ごすだろう。
付けてしまった傷は消えない。法律は刑に服せば罪を償うことができるとうたっているが、本当に償うことなど不可能だ。ならば己のしでかしたことを忘れずに、生涯胸に刻んで生きていくしかない。
「殿下?」
可愛らしい声に呼ばれてうなだれていた顔を上げると、ユーフォルビアの顔が目に飛び込んできた。
この姫には不思議な魅力がある。見る者の心を和ませ、慰め、元気づけてくれるような温もりだ。
賢さは身につけたが擦れた訳ではなく、純真さはそのままだ。
ストレチアは彼女の小さな手を両手で恭しく握りしめた。
「……これから苦労をさせると思う。だがその分、お前のことは死ぬまで大切にする。だから、側にいてくれ」
「勿論です、あたしはあなたの妻なんだから。まだまだ至らないけれど……ずっとお側に置いてください」
ハーブの香りのする花嫁を、力一杯抱きしめた。
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