第13話 ゲス王子の怨念、王妃の火あぶりを目論む
四年遅れて学校を卒業し、王家主催の夜会で久し振りに会ったグリムヒルドは美しかった。
17歳となり幼さが抜けた彼女は、正に咲き初めた花の美貌で微笑んでいた。
ときめきを隠そうともせず次々に挨拶に訪れる青年貴族の誰にでも落ち着いた笑顔を向けて穏やかに対応するが、誰とも必要以上に話が弾みはしない。
男がもう少し踏み込みたいと意気込んだ瞬間、絶妙なタイミングで出鼻を挫き孤高を保っている。
「お高く留まって感じが悪いというわけではないけど、高嶺の花よねえ」
「殿方がお嫌いなのかしら。恋人の話も聞かないわ」
「あれだけ美しい方なのに……」
貴婦人たちの噂話を聞いて、ストレチアは確信した。
あいつは俺を待っているのだ。誰も寄せつけず、俺が学校を卒業して社交界デビューするのを待っていたのだ。
だから他の者を後回しにし一番に、誰からも親しいと分かるよう愛称で声をかけてやったのに。
「久し振りだな、ヒルデ」
「ストレチア殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう」
グリムヒルデは完璧な笑顔と一分の隙もない作法で挨拶を返した。
何一つ、他の男と変わらない対応だった。
それからも生真面目な性格ゆえ体面を取り繕っているのだと事あるごとにアプローチをかけてみたが、誰とも分け隔てなく接される。
自分と他の男の区別がついていないのかとすら思わされた。
その他大勢という括りの中に何気なく放り込まれる。
ストレチアにとって、それは何よりも耐え難い屈辱。
あれだけ酷い嫌がらせをして叩きのめしてやったのに、憎しみすら抱かないのか。
(許さない。この俺を他の有象無象と一緒にするなど断じて許さない。絶対俺の下に屈服させてやる)
◇
「ああ……っ、いや、いやあ……っ、痛い、痛い……! 誰か、誰かたすけて……っ」
今、組み敷かれて無様にヒィヒィ喘いでいる女と同じ目に遭わせてやらなければ気が済まない。
「誰も助けてはくれないぞ。頼むなら俺に頼め」
「ああっ……お、王子様……もう、お許しを……ひぃ、死ぬ……、苦しい……」
弱々しく呻く無力な女の喉に手をかけると、息も絶え絶えだった女がどこにこんな力が残っていたのかと思われるほど必死にもがき始めた。
「いっ……いやあぁーっ! や、やめてえ、殺さないで……っ、死にたくない、死にたくないぃ……!」
面白がってさらに力を込めてやるが、ふともっと面白いことを思いついて手を緩めた。
「怖がらせて悪かったな。俺は気に入った相手には酷いことをしたくなる悪い癖があるのだ。お前のことは帝都に連れて帰るぞ。王妃が着るようなドレスも仕立ててやる。だから機嫌を直せ」
打って変わった猫撫で声に女はますます怯えて身を竦めた。
「本当だぞ。ウィッグも必要だ。胸も小さいから少し太れ。好きなものを好きなだけ食べさせてやる」
女の体をまさぐりながら考えを巡らせる。
グリムヒルドを捕らえ、王女を虐待した罪で公開処刑するのだ。しかし実際に火あぶりにするのは替え玉のこの娘。
本物は塔の奥深くに閉じ込めて、一生俺のものとして飼い続けてやろう。
折れなかったあの心を折り、今度こそ跪かせてやる。
泣いて許しを請え。艶やかに喘げ。俺のものになった瞬間、お前は世界一美しくなるのだから。
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読んでくれてありがとうございました!
次回ざまぁです。
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