第11話 ゲス王子、王妃似の娘を奴隷とする
かくして運命の扉は開かれた。
第一王子ストレチアを総司令官とするグロリオーサ帝国軍は、宣戦布告と同時に三方から攻め込んだ。
迎え撃つガルデニア王国軍は地の利を生かして善戦するが圧倒的物量と軍事国家の練度の前にじりじりと押され始める。
ガルデニアが農業のプロなら、敵は戦争のプロなのだ。
敵うわけがないところを異様な粘り強さで持ちこたえているといった状況である。
「フラウア守備軍撤退! ファベイシャス第一防衛線まで10キロ切りました」
「ファベイシャス第一防衛線に援軍投入! 傭兵隊500で北方を固めなさい!」
病床の国王に代わり、王妃は将軍たちと協力して采配を振るう。勝るものは地の利と情報戦しかない。精鋭諜報員たちと命がけの伝令兵によって正確な情報は入ってくるが刻一刻と戦況は悪くなる一方だ。
次々と飛ばす指示に軍事顧問が静かに口を開く。
「グリムヒルド殿下、畏れながらその布陣ですとストック村がほぼ無防備に」
(昼過ぎにストック村に至るのは王子率いる精鋭部隊。彼らに対応できる軍はガルデニアにはない。どの部隊を投入しても、負ける)
ならば捨てて、他の要衝を突破させないことに注力すべきだ。
「……ファベイシャスを突破されるわけにはいきません」
苦渋の決断であった。
ストック村。国境に位置する平和でのどかな村だ。戦争に巻き込まれるなど夢にも思っていなかった人々が住んでいた。
◇
「ほぼ無抵抗で制圧できたな」
「ここは機織り村で今の時期男は出稼ぎ、残っているのは女子供と僅かな老人ばかりです」
他の二方向から攻め込んだ軍を食い止めるのに精一杯だったのだろう、ストレチア王子軍は街道を破竹の勢いで駆け、通常の三倍の速さでストック村へと至り陥れた。
広々とした草原に小さな家が点在し、涼し気な桑畑と染料を採るための花畑が広がる。
「本当に何もないところだな。見捨てられるわけだ」
退屈そうな王子に、副官がニヤリと悪い笑みを見せた。
「そうでもございません」
「何?」
「きゃああぁ!」
「さっさと歩け!」
手首を縛られた数名の若い女が乱暴に引き立てられてきた。皆怯えて真っ青になっているが、粒揃いの美女ばかりだ。
王子の頬に好色な笑みが浮かぶ。
「ほほう、特産物は美形か」
そうしている間にも、隠れていた納屋や家から娘たちが引きずり出される悲鳴があちこちで上がっている。
隣の村まで何十キロもある場所だ。逃げる暇もなかったのだろう。
続いて村人にしては威厳のある老人と一緒に連れられてきた娘に、ストレチアは息を飲んだ。
(似ている……ヒルデに……)
少年のように短く切り詰めた髪の色こそ違うが、目鼻立ちがよく似ていたし田舎娘だというのにどこか品があった。
長老とその娘だという。
「女、来い!」
馬上から命令するが、娘はガタガタと震えて一歩も動けない。王子は舌打ちして馬を下り、大股で近づくと短剣でブラウスの胸元を切り裂いた。
「いやあああ!」
グリムヒルドとまったく同じ位置でこそないが、真っ白な胸の上部にホクロまであった。
「お、お許しを……何でもしますから……っ、お願いします……」
「王子様っ、娘は何もしとりゃしません、どうか、どうか、命ばかりはお助けを……!」
親子揃って涙を流し必死で命乞いする姿に気分が良くなり、刃物を鞘に戻す。
(あの生意気な女もこうして這いつくばれば可愛がってやったものを)
「おい、何でもすると言ったな」
「は、はい……見逃してもらえるのでしたら、な……なんでもいたします」
「ならば、今からお前の名前はグリムヒルドだ!」
「ひいっ!? 王妃様と同じ名前……! お、畏れ多い!」
「別に王妃だけの名前ではないだろう。お前はグリムヒルドだ、分かったな!」
「は、はい……私の名前はグリムヒルドです……」
「俺の奴隷だ、いいな? 何でも言うことを聞くんだ」
「はい……」
「大人しく従っていれば村人の命も助けてやる。逆らえば皆殺しだ。王妃なら国民を守る。村長の娘なら村人を守る。当然だな」
「分かりました……」
肩を落とし泣きはらした目で頷く娘に、グリムヒルドの姿が重なった。
(こんなふうに髪を切ってやったときが一番堪えていたな。あの時ばかりはさすがに父上の耳に入って小言を言われたが)
「老人と子供はまとめて蚕小屋に放り込んでおけ! 藁を周りに積むんだ、一人でも逃げようとしたら即座に火を放つ」
非人道的な指示を出し、兵士たちをまとめて高らかに宣言する。
「今宵はガルデニア美女で宴とする」
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読んでくれてありがとうございました!
ミリタリー、戦争ものと言うと男性の独壇場みたいなイメージばってん女の子も戦争もの好きなんやなかと?
いやでも『戦争は女の顔をしていない』か……
ともあれしばらく調子に乗る王子をご覧ください。上げて落とします。
良かってん♥や★ばつけてくださると励みばなります。
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