第8話 魔女、処刑フラグをへし折りに行く

「ユーフォルビア姫がストレチア殿下と結婚ですって?」


侍従からの報告に、しばらく二の句が継げなかった。


私は何もしていないのに、隣の国の王子様と結婚してる!


ここは童話の世界のようだけどちゃんと人が生活してる。一国の王族の結婚が本人たちの同意だけで済む世界ではないのに。


「何が起こったの?」

「殿下は別邸を襲撃して王女殿下を連れ去り、王都に帰るなり挙式しました。同時に略奪婚の申請をしています」


「なんてこと!」


やられた。完全に法の穴を突かれた。

姫を人里離れたところに隠したのが仇になって事件の発覚が遅れ、時間を与えてしまった。


それにしたって移動が速い。ストレチア殿下率いる騎馬隊は精鋭揃いだが、聞きしに勝る機動力だ。伊達に赤を着ていない。


「姫は? ユーフォルビア姫の様子は分かりますか?」


侍従は言いにくそうに口ごもった。あっ、大体分かった。


「美男の王子に一目で夢中で……」


貴婦人て本当にびっくりすると気絶仕草ができるんだ。本気で目眩がする。

ソファにへなへなと倒れ込んで水差しからハッカ水を飲み、どうにか正気を保った。


「ご苦労でした。急ぎ大陸連盟に婚姻無効の申し立てをするための会議を開きます。担当大臣を召喚してちょうだい」

「かしこまりました」


侍従が席を外すと、私は深いため息をついた。

物語のラストは着々と近づいてきている。童話ならここでめでたしめでたしで終わるけど、原作だったら王妃の断罪イベントがあるのだ。


王妃が焼けた靴を履かされたのは二人の結婚式。挙式は既にされているけれど、略奪婚を成立させるためだけのものだ。


この後で、確実に、ストレチアなら盛大な披露宴を開催する。


あの自己顕示欲の強いロクデナシが体裁を整えるだけの地味婚で済ませるはずがない。大々的に美しい花嫁を見せびらかし、国を挙げてのお祭り騒ぎだ。


そして最も人気のある大衆娯楽のひとつに処刑がある。

国家の慶事と言えば恩赦もあるが、処刑もつきものだ。特に名前を知られた罪人の。


……私、最高に盛り上がる人材じゃん。


うわあ、どうしよう。ひしひしと危機感が迫ってきた


大体ストレチアは昔から私に毎日嫌がらせをしてきた大嫌いな奴だ。法が許すならこっちが処刑してやりたい。

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