第4話 ワガママ姫と七人の家庭教師

「もういやーっ! 無理! お友達とおしゃべりもできない、ドレスは持ってきたものだけ、お菓子もクッキーとスコーンばっかり、お茶に入れるものは蜂蜜とジャムしかないなんて、何にもないじゃない! 生クリームの乗ったふわふわのケーキがなきゃティータイムとは言えないわ。ここでひと夏勉強ばかり!? 嫌、死ぬ、死んじゃう」


まだ一日目の夜である。居間のソファでお気に入りのぬいぐるみを抱き大暴れしていたユーフォルビアは、死ぬと口走った一瞬だけ家庭教師兼お目付け役の心情が微かに揺れたのを天才的な嗅覚で悟った。


彼女自身それと知ってやっているわけではないが、生まれつきどうすれば相手の好意や同情を惹けるかを本能で知り無意識でやってのける習性が備わっていた。


「そう、死ぬわ……お義母様は私が邪魔なのね。死んでしまえばいいと思っているんだわ。寂しい、寂しい……寂しくて死んじゃう……でもそうすれば、ママに会えるのね」


ユーフォルビアは翌日から途端に弱々しくなり、事あるごとに死ぬ死ぬと連発し塞ぎ込むようになった。

まだ14歳の少女が子供らしい生き生きとした表情を見せなくなれば顔色も心なしか悪く見え、本当に病気になってしまいそうに見えた。


「姫様、今日は課外学習にしましょう」

「ピクニックね! やったわ!」


館の周りの植生を調べたりスケッチをしたりするわけだが、大喜びのユーフォルビアはお弁当はサンドイッチで、おやつはこれがいいなどと注文を付けている。

勘違いが打ち砕かれ再びふくれっ面になるのに、三十分とかからなかった。


「こちらに泉がありますね。森の深くにある泉の成り立ちは……」

「わあっ、綺麗! ユニコーンが住んでいそう! あたし疲れちゃったわ、休憩しましょう」


言うが早いか荷物を放り出し、素足になっていきなり泉に足を浸す。


「きゃあ、冷たくて気持ちいい!」

「いけません、何がいるか分からないところに! お怪我でもされては」

「こんな綺麗な泉に住んでるなら、悪いもののわけがないじゃない」


確かに水の湧き出す砂は真っ白で細かく、足を傷つけるような小石ひとつあるようには見えない。


「姫!? 何を!」

「何って、泉に来たら水浴びって決まってるでしょ。一度やってみたかったのよね。あっちを向いててよ」


家庭教師は王族の体に触れることを許されていない。特例として今回は王妃から許可が出ているが、既に下着姿になってしまったうら若き乙女の肉体に触れてまで制止する度胸が先日三十歳を迎え見事魔法使い入りを果たした男にあるはずもなく。


「じゅ、十五分だけですよ!」

王女の裸体を見るまいと大きな木の陰に避難した瞬間であった。


「ぐっ……」


後頭部に鈍い衝撃があり、痛いと思う間もなく倒れ、家庭教師Aはそのまま二度と起き上がることはなかった。

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