第2話 白き魔女、魔法の鏡の正体は

改めまして、私はガルデニア王国の王妃、グリムヒルドでございます。白雪姫の継母です。

年齢は14歳の娘にオバサン呼ばわりされる28歳、夫である国王陛下は既に50歳を超えています。


生家はここよりずっと北方のフェンネル公国、前の王妃様が亡くなった後、国家間のパワーバランスのために嫁いでまいりました。


そしてつい先ほど思い出したのですが、前世の記憶があります。

ここではない別の世界、この国のことが童話として存在し、アニメ映画になって爆発的に世界中に広がった世界です。


……ここからは素でいきますね。


白雪姫の継母どうなったっけ!? ディ〇ニー映画だと姫に毒リンゴを食べさせた後、小人や動物たちに追われて雷に打たれたか崖から落ちたかで死ぬ。

確か原作だともっと酷くて、結婚式に出席したら断罪イベントが始まって、焼けた靴を履かされて死ぬまで踊らされるんだったっけ!?


エグい。現代のガイドラインに基づいた悪役令嬢の断罪イベントなんて目じゃない。


悪役令嬢よ、これが原始の断罪だ。


そんなことを言ってる場合じゃない。


今のは原作で姫を森へ連れ出して殺してしまえと狩人に命令したシーンに似ていると言えなくもない。

これから姫は森深くの館で七人の家庭教師と暮らすことになる。これが七人の小人たち。


この後、殺したはずの姫が生きているのを魔法の鏡で知って、自ら葬るべく毒リンゴを持って赴くわけだけれど……


『王妃様、定時連絡です』

「ひいっ!」


突然背後から声がした。振り向けば私、いや鏡。

私、持ってるじゃん! 魔法の鏡!!


『あの……?』


鏡は若い女の声で、不審そうにしている。


「何でもないよ……ありません。少しぼんやりしていました。報告を聞きましょう」

『はい……』


私が鏡の前の椅子に腰を下ろすと、彼女は国内の様子を語り始める。

宮廷内の動向をはじめとし、物価や民の不満、作物の出来などを過不足なく。


優美な曲線を持つ姿見は輿入れの際に持ってきたもので、王家に代々伝わる宝物だ。金属製のフレームはドワーフの職人が丹精込めて彫った薔薇と金細工の蝶で飾られ、特に蝶などは今にも飛び去ってしまいそう。


鏡の後ろには隠し通路があり、直属の部下たちが情報を集めて教えてくれる。


身一つで他国に嫁ぐ王女が自分を護るためには周りをよく知るのが一番だ。お陰様で病に倒れた陛下に代わって政務に就いてもそつなく妥当な判断を下せる。


政治など何も知らないはずなのに、何でも知っているように振る舞う私を、人々はこう噂した。



ガルデニアの王妃は不思議な力を持っている。


白き魔女、と。



……はあ?

女が仕事ができたら魔女? ふざけないでちょうだい。情報収集と学習の結果です。

例えば私が年少の王子だったりしたら、お若いのによく政治も市勢も勉強なさっていると感心されるんでしょ。



定時連絡を聞き終わって思考を元に戻す。


白雪姫の継母は姫を亡き者にしようとして失敗し、断罪されたわけだ。

現状、私には姫を殺す動機がない。つまりフラグは立っていない……はず。いないと仮定しよう。

姫と仲良くすれば童話とは違う結末になるだろうか。


「あの娘と……仲良く?」


できるだろうか? 私も中学生の頃は片っ端から親に反発していたから白雪姫の気持ちもよく分かるし、大人になった今は口やかましく言う理由も理解できる。


子供がやらされること、禁止されていることにはそれなりの理由がある。大人になればそれがいくつかの理不尽を除いては合理的だったことが分かる。


でも自分ではもう大人と同じものの考え方ができていると信じている14歳に、それを分かれと言っても無理な話だ。自分が通った道だからこれも凄く実感できる。


どうしたものかと悩んでいるところへノックの音が聞こえ、伝令の少年が現れた。


「陛下が今日は調子がいいのでお散歩でもとおっしゃられておいでです」

「本当? すぐ行くと伝えてちょうだい」


早速侍女に手伝ってもらい、ドレスを着替え髪を整え、靴をはき替えさせてもらう。


私は一人ぼっちじゃない。相談できる夫がいる。

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