Ⅴ

 

 気持ちを入れ替えて、テレビを眺めながら、夕飯を食べ続けた。料理は旨かった。俺はビールを二本あけ、お腹いっぱいになった。

 ――しかし、原爆とは恐ろしいものだな。人の影が残ってしまうくらいだからな~――

 体が震えた。明日、原爆資料館に寄ってみようかな。と思った。二本目のビールを飲み干すと、階下に向かって、

「女将サーン、ビール瓶下げてください」と、頼むと、ハ~イと言って駆け上がってきた。

「お客さん、明日の朝御飯は何時ごろにしますか?」と問われたので。

「そうだな-、七時半ごろでいいですよ」

「はい、解りました。ではそのように」と言って、降りていった。

 十時を回っていた。女将さんがひいてくれた布団に入り、横になってテレビを見ていたが。今日は飲みすぎたな。うとうとと、し始めた。“寝ーよ、おっと”と思って、電気とテレビを消して布団に潜り込んだ。少し疲れていたのかもしれない。直ぐにぐっすりと、眠りに入った。

 えっ、真っ暗な闇の中で、誰かが俺を呼んでいるような気がする。きっと気のせいだな。疲れているんだ。

「……」

 

「・・・・」

 

「****」

 

「ぉ~ぃ」

 

「お~い、……」

 

「お~い、安倍川勇二」

 

「お前、安倍川勇二だろ!」

『な、何だ! お前は誰だ』


「俺だよ、春日井典昭だよ!」

『な、何だって、何処にいるんだ。辺りは真っ暗で何も見えやしないよ』

 

「やっと、待ちに待った、俺に脳波の波長が会う奴が止まってくれたんだ。今まで何人もの人が止まったが、やっとお前に会えた。俺はお前の脳細胞のなかにいるんだよ。お前の事はお前の脳細胞から学習したから、お前の事は何でも解っているぜ」

『冗談じゃない、早く俺から出ていってくれ❗』

 

「そうも行かないよ。やっと会えたのだからな。俺には一つある能力を持っているんだ。俺といると便利なものだぜ」

『能力? どんな能力なんだ』

 

 漆黒の闇の中で奴は答えた。

「俺はな、時間を遡らせる事が出きるんだお前のな。ただし一回だけだけどな」

『ふーん、超能力を持っているんだ』

 

「超能力という程でもないがな、長くあんな格好で活きていたら、そのくらいの能力はつくさ! 人間には解らないだろうが、人間の回りには沢山の異次元が隣り合っていて、お前の周囲に違ったお前が生きているのだよ。それを行き来出来ないだけなのさ。そんなことより、勇二。過去に戻りたくないか? 例えば中学時代のお前にとか」

『そんな気はないね、また中学からやり直すなんて、半か臭いよ! 確かに人生は変わっているだろうがな』


「いいのかな? 

――何のために生きてるの

――生き甲斐はなに

――目標の無い人は人類の迷惑

――生産性の無い人生は世の無駄」

何て事を言われなくて済むんだぞ。人の心を闇に落とすような言葉を、お前しだいで避けることが出来るんだぞ」

『その記憶は残ったままで、過去に遡れるのか?』


「そうだよ、だから違う人生を選べるって言ってるじゃないか」

『そうなのか。う~む、悩むな……』

 等と言った会話を交わすと、春日井さんは、小さな赤い点になって、暗闇に消えていった。

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