Ⅳ

 

 何だって❗ 俺にはまだ心の準備が出来ていないというのに、何を話せばいいのだ。俺の心臓がドキドキしてきた。兎に角、話を持ちかけたのは俺なのだから、何か話さなくっちゃな。俺は、午前中の授業の間じゅう、ない頭を抱えて、考えた。何だか震えが出てきた、そして、魔の昼休みとなった。俺は弁当を掻き込みながら、考えたが、消化に悪いだけだ。彼女を見ると、全く他の女子生徒と同じく、小さな可愛らしい弁当箱を開け、チョボチョボと食べていた。どうして、女の弁当はあんなに小さいのだ。俺だったら食った気がしないな。と、それはともかく、さっさと弁当を食い、図書室へと向かった。一階にある図書室に入ると、何とも場違いな場所に感じられて、空気に馴染めなかった。図書司書の先生がチラリとメガネの影から、チラリとこちらを見た。何だか鼻で笑われたような気がした。図書室には何人かの生徒がいて、思い思いに勉強をしているみたいだった。そんなことをしている内に、彼女が図書室の扉を開いて入ってきた。そして、俺の向かいに座って、

「一体、何の話かしら、貴重な時間を割いてきたんだからね。話があるならさっさと言ってくれるかしら!」

「すまない、貴重な時間を、は、は、話しというのは。どうしてこんな程度の低い学校にきたの?」

「家から一番近いから」

「やっぱりそうか、そう言う話しは聞いたよ、でも理由が解らなかったんだ」

「学校から近かったら、すぐに家に帰れるじゃない。私の帰りを家庭教師が待ってるの。直ぐに勉強に取りかかれるじゃない。私は学校の勉強はもう済んじゃってるの」

「そんなに勉強をしてどうするの?」

「どうするのって、私の夢を実現させるためよ。私は東大に入って、医学の研究をするの。将来は心臓外科か脳外科の医者になりたいの、そして、沢山の難病に罹っている人の役に立ちたいの」

「そ、そうか。素晴らしい夢だな!」「夢で終わらせたくないの。そんなことより、安倍川君は将来、何になりたいの? どんな人生を送りたいの?」「俺か。別に何も考えてないよ」

「何も考えていないって! 何のために生きてるのか、考えたことはないの。一体安倍川君の生き甲斐は何なのか何もないの? 呆れた」

「そうか、何だか生き甲斐とか言われると、かったるいんだよな」

「つまり、何の目標もないって事なのね」

「そう言うことかな」

 小笠原さんに目を剥かれた。俺に本当に起こっている顔を剥けた。俺はタジタジとなったが、

「結構そう言う人多いんじゃね」

「そんな人は滅多にいないわよ。みんな何かに向かって夢を追っている筈よ、それなのにあなたは何! 目標が無いってことは、生き甲斐もないってことね。呆れたわ」

「誰かのためになりたいとか、そんなこと考えたことはないの?」

「全くないね」

 彼女の顔が赤くなった。怒っているのだ。

「目標のない人は人類の迷惑よ! つまり社会において生産性がないと言うことね、そんな人生は生きてるだけで、世の中の無駄よ」

「そんなに言うなよ。俺、辛くなるよ。だって何をしたらいいのか解らないんだ」

「あぁ、イライラするわ。あなたみたいな人と話してると。貴重な時間を割いて、此処にきたのに、本当に時間の無駄だったわ」

 と言うと、椅子から立ち上がって、肩を怒らせた様子で図書室から出ていった。ひょっと見ると、司書の先生が笑っていた。

 ――余計なお世話じゃ――

 と、思いながら俺も項垂れながら席を立った。

  

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