第196話 ダンジョン鉱山の歴史。
オレたちは、新しく手に入れた水色の『軽トラカートリッジ』のおかげで、モーゼのごとく海を割って海底を走り、6階層の海フロアの海底にある階段から7階層に足を踏み入れた。
そこにあったのは鉱山フロア。
どこかで見たことがあるような、リアル鉱山の風景が目の前に広がっていた。
そして、そのフロアの一画には、ひつじさんが立てたと思われる『鉱山博物館』の看板がついている建物があり、今、オレたちはその中を見学している。
そこにある展示ケースの中には、亜鉛、鉛、金、銀といった定番の鉱石のほかに、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネといったゲームや物語の中に出てくるファンタジーなものまで並べられていた。
「ご主人。おりはるこんってなんだかおいしそうなのにゃ。」
「食い物じゃないぞー。鋼鉄よりも硬い金属のことだぞー。」
「こんな名前の金属があるんですね。初めて知りました。」
まあ、
マナミサンも剣道一直線の青春時代を送っただけあって、ゲームやら物語などに縁はなかったであろうから、こんなもんだろう。
「ゲームの中だとなー、こういった金属で伝説の剣とか防具とか作れるんだぞー」
「へー、そうにゃのか」
「……!」
「どうした? 真奈美?」
「先輩! 剣とか防具が作れるってことは、刀も作れるんでしょうか?!」
「そうか! 真奈美の言いたいことは分かったぞ! 鷹爪市のダンジョンボス戦で折れてしまった刀の代わりが作れないかってことだな!」
「はいっ! あの防御力の硬いボス相手にでも、この素材で作られた刀ならば通用するのではと!」
「うん、確かにその可能性はあるが、まずは鉱石を一定量以上採掘する必要があるし、それにとても硬い金属だから、どうやって加工するのかという問題点を解消しないとだな」
「わかりました! 気合で採掘して、気合で刀を打てばいいんですね!」
「物理脳筋か!」
興奮するマナミサンをどうにか
こうやって鉱石が展示されているのだ。
もしかしたら、効率的な採掘の仕方だとか、武器や防具に加工する方法のヒントとかも示されているかもしれないという期待を持って、次のフロアに足を進める。
「ここからは、『この鉱山の歴史』って書いてあるのにゃ」
「歴史か……。オレの感覚から言えばこの自宅の車庫のダンジョンは出来てから半年もたってないのだが……そうか、歴史があるのか……」
「先輩? 深く考えると負けますよ?」
「しまっちゃうおじさんにしまわれてしまうかもしれないのにゃ」
「何に負けるのかどこにしまわれるのかよくわからないのだが……わかった。」
微妙な気分で見学を進め、案内板を読んでいくといろいろなことが書かれていた。
なんでも、この鉱山フロアが見つかってからというもの、当初はコウリ教という邪悪な宗教の狂信者とか、犯罪者を強制労働させる場所として利用されていたらしい。
当時はゴーレムという魔物がこのフロアにはびこっており、その犯罪労働者という囚人たちは採掘やら魔物討伐やらと馬車馬のように働かされたとのこと。
だが、そこに転機が訪れる。
当初、その強制労働や粗末な牢屋付きの宿舎の看守はそこを治める国の兵士であったのだが、徐々にその役割をひつじさんに受け渡していったところ、ひつじさんの光の波動に影響された囚人たちが次々に心を入れ替えていったのだとか。
そして、心の底から改心した囚人たちが自発的に魔物狩りや採掘に取り組み始めたところ、その効率は数倍にも及び、おびただしいほどの各種鉱石が産出され、はびこる魔物も掃討されて、特定の湧き点からたまに湧き出すくらいになるまでこのフロアの魔素を減らしたのだとか。
罰が罰でなくなった以上、囚人たちを閉じ込めておく理由は無くなり囚人たちは解放されたが、ひつじさんたちに深い恩を感じていた囚人たちは釈放後も自らダンジョンに戻ってきてひつじさん達と働くことを望んだのだとか。
そして、ひつじさん達はあらゆるダンジョンやフィールドにその活動の場を移していくが、その跡を追って、元囚人たちの『追いひつじ隊』も移動して、今でも貴重な労働力として国内外で活躍している。
「というようなことが書かれているのにゃ」
「美剣、通訳ご苦労さん。」
異世界謎言語で書かれた長文の歴史ガイダンスを通訳してくれた美剣をねぎらう。
「で、美剣、内容は理解できたか?」
「にゃ! ひつじさんがすごいってことにゃね!」
「まあ、合ってはいる」
「にゃ!」
そんなやり取りを続けながら次の展示室に向かう。
鉱石、歴史と続き、この次は一体何が展示されているのかな?
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