第195話 ダンジョン鉱山。

 サマーベッドで昼寝をしていたマナミサンと美剣を起こして軽トラに乗せ、改めて海水を押しのけながらむき出しになった海底を軽トラで進んでいく。


 後ろではひつじさんたちがオレたちのことを見送ってくれている。


 前にこの6階層に来た時には、たしかこの先に進むのはまだ早いってひつじさんに言われていたんだよな。


 ということは、今はその時が来たって言うことなのだろう。


 

 それにしても、こんなタイミングで波打ち際に軽トラ進化のカートリッジが漂着しているなんて、なにか出来過ぎているような気がする。


 たぶんだけれど、あのカートリッジはひつじさんが人知れずドロップさせていてくれてたものを、自然とオレたちの手に入るような形で準備してくれてたのではなかろうか?


 ほんと、ひつじさんには頭が上がらないよ。



 オレたちは海底を進む。


 どこに進めばいいのかは、海底に貝殻とか埋めて進行方向の標識とかをひつじさんが準備してくれていた。


 海底に貝殻の矢印で進行方向が明示されていたよ。


 ひつじさん、ありがとう。




 そしてたしか、このフロアから下に降りる階段は『竜宮城』とか名づけられていたはずだ。


 鯛や鮃の舞い踊りなんかで歓迎されるのかな?


 そして、玉手箱に気を付ける必要があるだろう。




 なんてことを考えながら軽トラを進ませていくと、



「……こんなオチだったとは」


 目の前に現れたのは、『ホテル竜宮』と書かれた看板。




 これって昔、丸舘市にあったラブホだよちくしょう!


 まだスマホもSNSも普及していない時代、こんな名前のラブホが丸舘市郊外にあったのだ。


 その名前のごとく、入り口には竜宮城のようなアーチがあったのだ。


 まあ、田舎のラブホだけあってとっても古くてぼろっちくて、なんというか、話のネタになるような建物だったんだよな。


 この時代にSNSとかあれば変な意味でバズっていたかもしれない。



 これは、誰に何をツッコめばいいのだろう?


 この建物、作ったのはひつじさんだよな?


 どうしてひつじさんはこんな昔の建物のことを知っていたのだろう?



 まあいい。


 おれにはひつじさんを責める気はない。


 なんせ世話になっているからな。


 ということで、珍し気にそれを眺めるマナミサンと美剣にさあ行くぞと声をかけて無心でアーチの向こうの建物の中にあった階段を降りていく。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 階段を降りた先。


 そこは、初めてとなる7階層。



 これまで自然豊かなフロアから海フロアと続いて一体どんなフロアなのかと思ってやってきたが。



「なんか、洞窟だな」


「自然のダンジョンって感じですね」


「にゃー、でも、真っ暗じゃないにゃよ?」



 その洞窟の壁や天井はうっすらと発光しており、軽トラのライトを点灯させなくても低速で運転できるほどの明るさがあった。


 その壁は、多くは岩のような荒々しい壁面が続いているが、その中にきらりと光る金や銀のような輝きが多数含まれているのだ。


「あ、先輩! この先、広くなってますよ!」


 マナミサンの言うとおり、少し進んだ先には大きく広がっている。


 そこに行ってみると、どこかで見たような光景が目に映る。


「ここは……鉱山?」



 そこは、映画やドラマで見たことがあるような、鉱山の風景が広がっていた。


 掘り進められた形跡のある坑道。


 鉱石を運ぶために設けられたトロッコのレールなど。



「ここってダンジョンの中だよな?」


 あまりのリアル鉱山っぷりに、思わずダンジョンから実際の鉱山の中に転移でもしたのではないかという疑念がわくほどだ。 


 魔物の姿も見受けられない。



 戸惑いながらも、大き目の坑道に沿って軽トラを走らせていく。



 そこで、オレの頭にあることがよぎる。


「そうか! 花丘鉱山!」


 丸舘市には、いまこそ閉山しているが、かつては日本国内屈指の鉱山として名をはせた花丘鉱山が存在していたのだ。


 

「なんもここまで丸舘市にかこつけなくてもいいだろうに」


 そんなことをつぶやきながら軽トラを進ませていくと、今度はいかにも人工建造物といった建物が目に入ってきた。


「にゃー、あれはぜったいひつじさん達が作った建物にゃ!」


 うん、美剣と同じことをオレも思っていた。


 ひつじさんの作った建造物があるという事は、ここは間違いなく車庫ダンジョンの中なんだなと思うあたり、随分とひつじさんに依存してしまったものだと思う。


「あ、建物に看板がありますね?」


「なんて書いてあるんだ?」


「鉱山博物館って書いてあるのにゃ」


 例によって謎言語で書かれている看板を美剣が解読する。


 せっかくだからと博物館の中を覗いてみる。



◇ ◇ ◇ ◇


 建物の中には、よくある博物館のように、ガラスケースが並んでおり、その中に色や大きさが様々な鉱石と、その説明書きが陳列されている。


「ここで採れた鉱石なんだろうな。美剣、説明を読んでくれ」


「にゃー、わかったのにゃ」



 美剣が並べられた説明書きを読んでいく。


「亜鉛、鉛、金、銀……」


 すると、


「オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネ……」


 なんだと!!!






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る