第194話 青いカートリッジ。
完敗だった。
鹿爪市ストーンダンジョン5階層。
自衛隊がいまだ突破できないそこのボスを倒すべく、合同討伐の依頼を受けて遠征したオレ達だったが、ボスの防御力はとても高く、真奈美の刀と美剣の爪が折れてしまった。
また、攻撃力も強く、オレなんかは盾持ちにもかかわらず吹っ飛ばされてしまった。
まさに戦線崩壊である。
軽トラに乗って逃げられたからよかったが、もし軽トラがなかったら追撃にあって命を落としていてもおかしくはなかった。
幸い、怪我は無い。
だが、
精神的なダメージというものが大きかった。
オレでもへこんでいるのだ。
攻撃が全く通じなかったマナミサンや
その二人は食欲も出ないようで、今日の朝食もろくに手を付けずにいる。
もったいないよ?
マナミサンがあれほど入れ込んでいた熊岱市のダンジョン商業化計画も動く気配がない。
うーむ、このままではいけないな。
◇ ◇ ◇ ◇
「よし! ダンジョン行くぞ!」
「「……はい?(にゃ?)」」
コタツに身体の半分を入れて物言わぬ骸となっていた二人(一人と一匹)に声をかける。
二人の反応は鈍い。
「先輩? ダンジョンって言っても、わたしの刀がありません。」
「前に使っていた模擬刀で十分だ。」
「ご主人。ネコはコタツで丸くなるのにゃ」
「いいから行くぞ」
◇ ◇ ◇ ◇
そして潜るのは当然、我が家の車庫ダンジョン。
今いるのは6階層、海のフロアの砂浜だ。
なんで6階層に来たのかって?
落ち込んだ時は、美味しいものを食べるのが一番だ。
ということで、前回は準備が出来ていなかったが、炭火でバーベキューだ!
砂浜にバーベキューコンロをセットし、炭火を熾す。
網の上には、ミノタウロスのカルビやハラミ、海からドロップしたホタテが並ぶ。
ご飯? 当然、ご飯の上には大トロたっぷり海鮮丼だ!
食欲を無くしていた二人も、さすがにこれには食いついた。
これまで食べていなかった分、もう何人前も平らげている。
拒食転じて過食だな。
―――太るよ?
◇ ◇ ◇ ◇
食べられるだけ食べて、腹がくちくなったらビーチにサマーベッドを出してお昼寝だ。
これまであまり眠れていなかったのか、マナミサンも美剣もぐっすりだ。
ああ、美剣の口からよだれが。
夢の中でも食べているのか?
そんなオレたちを遠目で囲むように、
ダンジョンのひつじさん達が見守ってくれている。
ひつじさんたち、オレたちがたくさん食べるもんだから、途中で食材が足りなくなるのを心配して色々狩ってきてくれたりしたんだぜ?
ひつじさんはやさしいなあ。
そう、今回のダンジョン行の目的はもう一つ。
こころやさしいひつじさん達にかこまれ、ふれあい、癒されることだ。
このフロアの天候は地上と違って夏真っ盛りになっていた為、残念ながら暑くてひつじさんのもふもふにうずまることは断念したんだけれども。
それでもほっこりひつじさん。
真奈美と美剣とひつじさんたち。
そんな心温まる情景を眺めながらトロピカルドリンクをキメていたオレの目に何か光るものが映った。
「なんだ?」
ダンジョンの海の波打ち際。
そこに打ち上げられたと思しき何かがダンジョンの太陽の光を反射してキラキラとした輝きを放っている。
オレはそばまで歩いていき、光るそれが何なのか確かめに―――
これは!
なんと、そこにあったのは以前にダンジョンでドロップした、軽トラにスキルを与える『カートリッジ』。
そう、軽トラのラジオの上にあるくぼみにちょうどはまるような形状をした、まるで昔のゲームのカセットのような形の代物だ。
最初は、黒いカートリッジだった。
美剣が人化して直ぐにドロップさせた不思議物体。
地上でしか動かない軽トラやスマホがダンジョン内で動くようになった原因と思われる、
environment transformation
と名付けたダンジョンのドロップ品だ。
次に手に入ったのは、オレンジ色のカートリッジ。
これで手に入った能力は、
ヘッドアップディスプレイ。(Head-Up Display、略称: HUD、ハッド)
であり、なんとその画面上でオートマッピングも、該当フロアマップの自動ダウンロードも行えるようになった。
あと、たぶんBluetooth機能も。
それで、今目の前にあるカートリッジは、
水色だ。
さっそく、軽トラにこのカートリッジをはめてみる。
ぴかーッと軽トラがまばゆい光を放ち、カートリッジが軽トラのダッシュボードに吸い込まれていく。
すると、
軽トラの前にひつじさんが2列に整列し、海へと向かう道を創っているではないか!
ひつじさんに導かれ、オレは軽トラを、砂浜の上から波打ち際に向けて走らせる。
軽トラは徐々に海に近づき――
「海が!」
なんと、軽トラの進行方向にある海が左右に割れ、海底があらわになっていく!
こうして海が割れ、軽トラが海底を走行できるようになったのである。
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