第193話 鷹爪ストーンダンジョン攻略⑤

「火炎放射ーー、やめ!」



「「「やったか?」」」


「「「フラグ立てんじゃねえ!!」」」



 初撃となる火炎放射がひと段落したあと、その炎の中を見つめる隊員たち。



 だが。


 炎が収まったそこに立っていたのは、攻撃前と何ら変わらぬ姿のエイリアンであった。



「まあ、こんな程度じゃ効かないってのは分かってたさ」


 不敵に嗤う隊長ズ(自衛隊)。




「こっからが本番だぜ?」











「射撃隊ーー! 打ち方用意!」


 続いて、銃による射撃が行われる。



 ダンジョン内では電子機器の使用が出来ないため、使用できる銃器もその機能が限られる。


 そのため、第2次世界大戦時のような手動のガトリングガン、日本でいうところの「89mmロケット発射筒 M20改4型」(バズーカ砲)などの装備が主に用いられている。



「ファイヤーー!」


「「「YAーーーー!!!」」」



 銃火器の一斉射撃。


 直接ダメージを与える弾薬のほか、ナパーム弾もその中には含まれている。


「火炎放射ーー! ファイヤー!」




 先ほどよりもひときわ大きな炎に包まれるエイリアン。


 その火炎の熱気が、後方で控えているオレたちの方にまで押し寄せてくる。



「残弾も燃料も全て吐き出せーーーーー! ここで決めるぞーーー!」




 その後も一斉放射は続く。







 ―――そして、




「くっ……、ダメか……」


 自衛隊の基地の弾薬全てを使用した今回のアタックも討伐には至らず。


 ただ、これまでと違う点としてはエイリアンの皮膚に焼け焦げがついたり、腕から伸びる触手のような器官が一部焼き切れたりしているという目に見えるダメージを与えられたという事らしかった。



「全員、速やかに退却! 軽トラの荷台に乗れ!」



 そして、自衛隊の皆さんは退却を始める。


 だが、まだ終わらん!



「あんちゃんたち! 頼んだぞ!」


「「「了解(はい)(にゃー)!!」」」



 オレたちは、軽トラの荷台へと退却する自衛隊の皆さんと逆方向に走り、エイリアンと相対する!



「『挑発プロヴォケーション』!」



 まずは、オレが挑発をかけ、エイリアンの攻撃を引き付ける。


 というのも、退却していく自衛隊の皆さんの後ろから、エイリアンが残された触手のような器官を使って攻撃を加えようとしていたからだ。



「あんちゃん! 助かるぜ!」


 おお、感謝された。




   じーーーーん



 嗚呼! オレが感謝されたぞ!


 自衛隊の隊長さんに!


 ポンコツと呼ばれ続けたオレでも、人さまのお役に立てるなんて!



 なんて、オレが感慨に浸っていると、




「『殺陣たて』!」


「『にゃにゃにゃにゃーニャニャニャニャー』!」



「「「「おおおおおおお!! 剣の姉ちゃんと猫のねえちゃんすげえーーーー!!!!」」」」


 ボスに攻撃を加えだしたマナミサンと美剣の攻撃に自衛隊の皆さんが沸いておられる。


 あれ?


 オレに感謝してくれたのは隊長さん一人。


 美剣たちに歓声を送っているのは外の多くの隊員たち……。



 いいんだ。


 オレはオレのやれることをやろう。


 縁の下の力持ちでいいじゃないか。


 ちくせう。




「先輩(ご主人)!!」



 あ、やべっ


 

 一人勝手に悲壮感にとらわれて一瞬ぼーっとしていたところに、エイリアンのぶっとい尻尾らしきものが飛ぶように迫ってくる!


 『挑発』中なので、その矛先は当然オレの方に。



「うわーーーっ!」


 とっさに盾を構えるも、オレは尻尾の薙ぎ払いで吹っ飛ばされてしまった!




「よくも先輩を!」


「ご主人のカタキにゃ!」

 


 フロアの端の方まで吹っ飛ばされてしまったオレを見て、マナミサンと美剣が吶喊をかけていく。


 おい、オレは死んでねえぞ?



「『剣舞けんぶ』!」


「『必殺かならずころす』にゃ!」


 そして、スキルを発動させてボスに切りかかる!



   パキ――ン!



「あっ!」


 なんと、マナミサンの刀が折れた!



「うにゃーー!!」


 そして、美剣は爪が折れてしまった!



 これはヤバイ!



「撤退だ! あんちゃんを回収しろ! 上級ポーションを使え! 早く!!」


 隊長ズ(自衛隊)さんの指示により、数人の隊員が軽トラの荷台から飛び出てきて盾を持った隊員の護衛の下、オレを回収してくれた。


 すぐさまポーションで回復され、軽トラの運転席に放り込まれる。


 けが人に運転させるなんてひどくない? ってちょっと思ったけど、軽トラの運転ができるのはオレだけなんだから仕方がない。

 


 剣や爪が折れて呆然としているマナミサンと美剣の二人も、隊員に連れられ荷台に乗り込む。


「あんちゃん! 運転大丈夫か?! 脱出だ!」




◇ ◇ ◇ ◇



 敗北――。


 今回の鹿爪市ストーンダンジョン5階層ボス突破のための遠征は失敗に終わった。



 人的損害――死亡:なし

       負傷:美剣(爪が折れた)


 物的損害――消耗した弾薬、燃料類。

       真奈美の刀『刃世正徳はせまさのり』。



 幸い、大きな被害は出なかった。


 美剣の爪も、オレの『快癒』マディで元には戻った。


 刀も、買えばいいだろう。



 だが、


 ここまで完璧に何もできなかったという事実は、自衛隊の面々のみならず、真奈美と美剣。


 この二人の心を打ちのめすのには十分であった。


  



 







 




  


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