第183話 ダンジョン投網漁。

 ……うん。


 ダンジョンの海フロアで野営の訓練を兼ねてキャンプをしようとしたんだが。


 せっかくのキャンプだというのにバーベキュー用の準備がなかったんだよな。


 それに、せっかくの海だというのに、釣り竿とかもないから海の幸も味わえないし。


 テントとか毛布はあったから寝るには困らないんだけど。


 夕食? カセットコンロはあったからね。


 ひつじさんからもらった野菜で鍋にしたよ。


 砂浜で鍋だよ?


 まあ、美味しかったからいいんだけどさ。



 夜は、一つのテントに3人(匹)で寝た。


 野営の訓練だから、これは想定内だ。


 訓練なんだから、当然何事も起こらない。


 ダンジョン内で、例の効果もあるんだろうけど決して何もしていない。


 していないったらしていない。



 で、翌朝。



 みんなで水平線から登ってくる朝日を見つめている。


 昨日夕日が沈んだ方向と同じ方向から朝日が昇ってくるのには驚いたが、なんせここはダンジョンなんだから仕方がない。



 それで、この海フロアなんだがこれまでのミノタウロスやコカトリスのエリアとなんか違う。


 そこでふと気づく。


 上の二つのフロアには丸舘市の山とか川とかの名称があったんだけど、よく考えたら丸舘市は海なし市町村なのだ。


 設定矛盾してない?


 いや、ここで下手に整合性を求めると晴田県沖の風力発電所とか某熊岱市の海沿いにある火力発電所とかがダンジョン内に湧いてきそうなので思考を止める。


 電気機器が使えないはずのダンジョン内に発電所が生えるなんてミラクルはいらないんだ。




 さて、どうしようか。


 せっかくこのフロアまで降りてはきたが、魔物は海の中にいるっぽいし、でも海には入れないし釣りの道具すらない。


 仕方がないから戻ろうかとマナミサンたちに言おうとしたときに、ふと視界の隅にひつじが映る。


 なんと、ひつじさんは海の上に浮かんでいた。


 羊毛がいい感じに海水をはじいて浮かんでいるんだろうな。


 そのひつじさんは、風に吹かれて岸までたどり着いて上陸する。



 そして、美剣に何やら話しかけている。


「メエメエヴェエエエエエエエ。メエメエ。」


「にゃーにゃにゃあにゃ。 にゃにゃあにゃあ。」





「……ふむふむ。ご主人」


「なんだ」



「この先に進むのはまだ早い……だそうですにゃ」


「……はあ。」



「なんでも、この下のフロアに行く階段は海底の『リューグージョー』にあるらしいのにゃ」


「またいろいろ混ざったなあ」



「で、いまの軽トラでは海の中には入れないそうなのにゃ」


「いや、軽トラは何年たっても海に入れるようにはならないと思うんだが?!」



「でも、ひつじさんがそう言うのにゃ」


「それなら仕方がないな」



「それでにゃ、ここまで来ておさかなが食えにゃいのはかわいそうだから、羊毛をよじって投網を作って提供するそうなのにゃ」


「羊毛便利だな?!」



「そして、その投網は羊毛の撥水効果で水に沈まにゃいから、この重しを使うといいらしいのにゃ」


「この重しの石は……とても重いな?」



「にゃんでも、ここより下の階層で採れる鉱石らしいのにゃ」


「そうか……。その鉱石とか、下の階層に鉱山みたいなのがあることはいったんスルーしてだな。そもそもこの重しの石が重すぎて投網が投げられないと思うのだが?」



「にゃんとかにゃるのにゃ」


「さいですか」




 で、さっそくひつじさんから投網と重しの石を手渡され、まさかの投網漁をすることになった。


 投網についている重しの石がとっても重かったが、レベルアップの恩恵を受けたマナミサンは何の苦もなくハンマー投げみたいな動きでザッパーンと投げ込んでいた。うん、とてもきれいな放物線だったよ。


 遠投漁業とでも名付けようかな?



 そしてなぜかすぐに網にかかる大きなマグロさん。


 とても都合がいいな!



 そしてすぐさま、得物の爪を伸ばして瞬殺で3枚降ろしにする美剣。


 『おさしみくいたい』の執念がマグロさんを引き寄せたのだろうな。


 というか、せっかく3枚おろしにしたのにドロップアイテムは刺身のサクで出てくるという不合理さ。赤身だったよ。


 美剣よ泣くな。


 そのうち大トロの部位もドロップするからさ。



 とりあえず、オレは赤身のサクをまな板に載せ、食べやすいように刺身にしていく。


 マナミサンは無言で投網を海に放つ。


 そして網にかかるタコ。



 おい。


 美剣様がマグロの大トロをご所望なのだ。


 マグロよ来い。



 切りにくい生のタコの足を刺身にしつつ、マグロがかかるのを祈る。


 しかしその後も。


 イカ。


 はまち。


 サーモン。


 カンパチ。


 ブリ。


 アワビにホタテに甘エビちゃん。


 わさび。


 そしてとどめに大根のつま。


 あえて突っ込まないが、最後の二つは違うと思う。



 そうこうしているうちに。


 なんということでしょう。


 大トロを待たずに刺身の盛り合わせが完成してしまった。



 これには美剣もあきらめ顔。


 まあ、大トロはなくてもこれだけあればだいじょうぶにゃと半泣きで大人の対応をする美剣。


 不憫に思い、マナミサンが最後の一投。



 そして見事。


 美剣は大トロを手に入れた!



 美剣はうまそうに食べていた。


 ただ一つ。反省点があるとすれば。


 今度は普通のではなく、お刺身しょうゆを買っておこうと心に決めたのだ。




 っていうかさ?


 わさびや大根のつまがドロップするなら刺身しょうゆもドロップしてくれてもいいんじゃね?


「にゃー」



 





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