第182話 忘れ物。
レトロなゲームに着想を得て、コカトリスの石化ガスを無効化できる技を編み出した。
そんなオレは、ちょっとだけ得意げだった。
なのだが。
「はああああああっ!」
「にゃにゃー!」
「ふう、相手が石化のガスを出すと分かれば対処のしようもありますね。」
「そうにゃ。ガスを出される前に瞬殺にゃ!」
マナミサンと美剣の素早い攻撃速度によって、その後この作戦が日の目を見ることはなかったのであった……。
美剣たちがコカトリスを倒しているのを軽トラの運転席で眺めていると、周りにひつじさん達がいて様子を見ていることが分かった。
後で美剣に聞いたところによると、ひつじさんたちはオレたちがコカトリスの石化ガスにやられてしまわないか心配して様子を見に来てくれていたのだとか。
やさしいなあ、ひつじさん。
ところで、ひつじさんたちは石化攻撃には対処できるのか疑問に思い聞いてみると、どうやら『羊毛ガード』が働いて石化ガスは効かないらしい。
すごいなあ、ひつじさん。
オレがひつじさんたちのことを思いほっこりしていると、
「にゃー、そろそろ下のおさかなフロアに向かおうにゃー」
「そうですね。ドロップの種類が多すぎます。それに、モモニクとムネニクはこれだけあればしばらく持ちますからね。」
そういえば、オークやミノタウロスの時もそうだったが、この『お肉落とすモンスター』たちはじつにさまざまな部位のおニクをドロップしてくれる。
で、このコカトリス君だが、
モモニクやムネニクなんてものは当然のことながら。
なんと焼き鳥までドロップするのだ。
いや、串はどっから出した。
そして、ねぎまのネギまでついている。
そのネギどうした。
しし唐の串なんてトリニクすらついてないぞ?
どうやら、焼き鳥には野菜串を含めると70種類ほどの種類があるんだってね。
いや、それ全部コンプリートさせるのはちょっと気が遠くなりますよね。
ということで、途中で切り上げることにした。
美剣がひつじさんから聞いた情報によれば、まれに体毛の茶色い個体が現れ、そのドロップは緋外地鶏になるんだとか。
ほかにも七面鳥の丸焼きみたいな感じでのドロップとか、本当に多種多様らしい。
オレとしては、ぜひ緋外地鶏の丸焼きを所望したい。あれ買うと高いんだよな。
で、これまた定番のダンジョン内の交通標識に従って地下6階層への階段へと向かう。
ちなみに、この階にも分岐点は有って、その内容が『芝山地湿原』と『畑代岳』だってさ。
もうツッコむ気力も失せましたとも。ええ。
おそらく湿原はザリガニ系の魔物でロブスターあたりのドロップだろうし、こっちの山の方はタケノコとかの山菜が豊富なのだろう。
山菜は良いとして、丸舘市にロブスターなんていないからな?
そしてたどり着いた6階層に通じる階段。
そこには、さっきの階段と同じく『長歩風穴2』と。
……ネタが切れたな?
同じ名所の地名の使いまわしを全力スルーして階段を軽トラで下っていく。
すると、そこには――
「海だにゃー!」
砂浜の海岸線と、はるか水平線まで望める海が広がっていた。
「ほんとうにダンジョンの中に海があるんだな。」
「この海、どこまで続いているんでしょうね?」
この海は一見果てしなく見えるが、やっぱりダンジョンの中なのだ。
その証拠に、軽トラカーナビの
「先輩と海の果てまで行ってみるのもいいかもしれませんね?」
「なんか怖い」
「にゃー! 美剣もその気になれば泳げるのにゃー!」
ぜひ猫かきを見てみたいところではある。
「にゃー! まずはおさしみにゃー! まぐろ出てこいにゃー!」
「そういえば、魔物はどこでしょうね?」
「あ」
そうか、海のフロアと言えば、当然魔物も海の中にいるよな?
で、その海の中の魔物をどうやって狩るんだという話になる。
「浅瀬で狩るしかないんでしょうか?」
「浅瀬にマグロはいないと思うぞ?」
しまったなあ。
こういう事態になることが予想出来ていたのならば、せめて釣り竿とか、ゴムボートとか、せめて浮き輪や水着くらいの準備はしておくべきだった!
「ご主人? 準備は完璧だー!とか言ってなかったっけかにゃ?」
「ううう、すまん」
「まあ、ないものは仕方がないですね。ところで先輩? そろそろ日が暮れる時間ですけど今日はどうします?」
そうだ。今日は午前中はいろいろ買い物をしていてダンジョンに潜ったのは昼食後。
ダンジョン内では時間の流れが把握しにくいから忘れていたが、そろそろ夕方から夜になる時刻になっているはずだ。
「ほら、水平線に夕日が沈んでいきますよ」
なるほど、ダンジョン内でも時間の経過は反映されるんだな。
いままで日中にしか潜ったことがなかったからわからなかったぜ。
「よし、せっかくだから、この砂浜で
「「わーい(なのにゃ)」」
「よし、それじゃあ夕食は豪快にウシやトリニクのバーベキューだ!」
「先輩! バーベキューコンロと木炭がありません!」
「なんだと!」
と、いうことで。
完璧な準備をしたと思っていたのだが、やっぱりオレにはどこか抜け落ちる運命にあるらしい……。
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