第180話 担当制。

「つぎは美剣みけの番にゃ!」


 マナミサンの華麗な戦いを見て滾ったのか、美剣が次の戦いの名乗りを上げる。


 

 どうして我が家の女性たちはこうも好戦的なのだろうか。


 マナミサンが殺戮姫なら、美剣はさしずめ必殺猫とでもいったところだろうか。


 せめてオレだけは『殺』の文字の入るような形容詞を持たないように生きていこう。


 『日和見男』とかな。




「にゃにゃにゃにゃー!」



 とか考えている間に新しく森の中から現れたミノタウロスを美剣が瞬殺する。


 首切り猫。


 まさに忍者? 忍猫? のクリティカルヒットだ。



 そして、美剣が倒すともれなく出てくるドロップアイテム。


 これまたダンジョン不思議仕様の、肉屋の紙に包まれたお肉。


 この紙、硫酸紙って言うんだっけか?


 なんでだろうか、スーパーの白い食品トレイのパックに比べて、この紙で包まれると高級な感じがして、とってもうまそうに見えるのは。


 というか、実際にこのお肉は美味そうだ。


 ランクにするとどれくらいになるのかはわからないが、オレが普段買っていた海外牛の切り落としとは段違いの味がするに違いない。


 よし、マナミサンと美剣に続いてオレも腕試しと行こうじゃないか!




 森の中から新たなミノタウロスが現れる。


 オレは盾を構えて正対する。


 やっべ。


 こうやって向き合ってみると余計でかく感じられる。


 正直、ちょっと怖い。


「ヴモォオッォ!」


 大ぶりな鉄製ハンマーの一撃を盾で受止める。


 さっきのマナミサンの戦い方に倣い、オレもスキルを使わず素の盾の面積のみで受止めてみた。


「ガキィィィィィィン!」


 やっぱ怖ーよ! 


 思わず目をつむって顔を背けてしまったじゃないか。



 そういえば高校時代ラグビー部、タックル行くときに目をつむらないで行けるように練習したっけなー。


 おっといけない。


 走馬灯じゃないよな?



 不安になったオレはたまらず『理力盾フォースシールド』を展開する。


 これで防御する面積が増えて安心できるぜ!


 そのあとは、ハンマーとハルバードでのどつきあいだ。


 ハンマーの攻撃を盾で受ける。


 ハルバードで殴る。


 盾で受ける。


 今度は突き刺す。


 3回位突き刺して、ようやくミノタウロスは光の粒子と化す。



 ふう。


 最初はちょっと焦ったけど、ちゃんと完封で倒せたぜ。


 ちょっと大きくて、その迫力にビビってしまったことは内緒にしておこう。



 これで、ここのフロアも魔物の強さ的には脅威はないことが判明した。


  

「さて、どうしようか。こいつの強さは大体わかったし、もっとここで牛肉を仕入れるか、それとも次の階層に足を延ばすか」


「次に進みましょう。ここの敵もヌルいです。」


「にゃー、下の階にはトリニクが出るのにゃ。モモニク食いたいのにゃ!」


「はいはい、じゃあ進むとするか」



 そうして軽トラに戻り、なぜか整地されている森林の中の林道を進むのだが、


「分かれ道だな」


「そうですね」



「何で標識まであるんだ?」


「青地に白文字で日本の交通標識みたいですね」



「美剣、なんて書いてあるかわかるか?」


「にゃあ。左が地下5階への階段って書いてあるにゃよ」


「まっすぐと右の道にはなんて書いてあります?」



「にゃー、真っすぐが『ホウオウやま』で、右が『麦代川』だにゃ」


「なん……だと……」


「どっかで聞いたような名前ですね?」


「いや……どっかも何も、丸舘市の山と川の名前じゃねえか!」


 なんなんだこれは。


 ここ、ダンジョンの中だよな?



 いや、待て。


 地名もそうだが、その前だ。


「なんでダンジョンに交通標識まであるんだ?」


「先輩? それを言うなら林道もですし、さっきも看板ありましたよ?」



 いくらダンジョンが不思議仕様だとしても、さすがに文字の入った人工物まで自然発生するとは考えにくい。


 一体なぜここまで人の手が入った形跡があるんだ?


 一体誰がこんな手の込んだことを? 



 

 そんなことを考えていたとき、


 ふと、視界の隅に。


 正面の林道の道の先、脇に立ち並ぶ木々の隙間に動く白と黒の影を見つける。



「「あ。」」


「ひつじさんたちだにゃ」



 ひつじの仕業かーー!



 そうか、確かに3階層にいて美剣と話していたひつじは『D白46』さん、『D白1』さんと『D黒1』さんだ。


 数字が1で始まる白と黒、そしてそれが46まで続くとなれば、最低でも他に89匹ほどのひつじがいてしかるべきである。


 アルファベットの並び順を考えるなら、さらにその3倍いてもおかしくない。


「にゃー、ここの階層の担当は30番台の白と黒のひつじさんなのにゃ。土魔法とかで森を切り開いたり林道を整備したりしているのにゃ。」


「その情報はもっと早く欲しかったぞ……」


「てへぺろなのにゃ」



 で、美剣がひつじさんから聞いていた情報をまとめると、


 このダンジョンの担当は『D』の一個中隊であり、各中隊は白と黒が48匹ずつで全96匹いるそうな。


 地下3階層は40番台が担当、4階層は30番台、5階層は20番台と続き、6階層は10番台。各色1番のリーダーは総指揮官として各階層を巡回しており、一桁のナンバーズは7階層以降で活動しているのだとか。


 


 ダンジョンっていったい何なんだろう……?


 ひつじっていったい何なんだろう……? 


 標識はどうやって作っているんだろう……?!



「にゃー?」





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