第179話 真奈美の剣。

オレたちはひつじさんたちにお礼を言って3階層を後にする。


 地下4階層への下りの階段は、水田地帯の奥にあった。


 なんというか、地上の水田脇に良くある川からの取水口の水門みたいなたたずまいになっていて、一瞬階段だとはわからなかった。


 ちなみに、美剣みけがひつじさんから聞いた話によると、この階段は3年ほど前はどっかの神殿みたいに無駄に豪華になっていて、あまりにも周囲の光景になじまず作り変えたのだとか。




 ん?



 3年前?



 ここの車庫ダンジョンはつい3か月前に出来たばかりだし、3階層以降はそれこそつい最近拡張したばかりのはずでは?



 やっぱりここのダンジョンはなにかおかしい。


 何がどうおかしいのかはうまく説明できないが、とにかく何かがズレていて、それでいてそのズレがあるがゆえに何かがかっちりとはまるという妙な感覚。


 そしてこれも感覚的なものなのだが。いまこの時点で正解を求めてもその答えは得られないであろうこともなんとなく感じられる。


 気にならないことはないが、今はこれ以上このことを考えても無駄であろうことは理解できた。


 

 そして、ミノタウロスが出るというここの4階層。


 3階層の広大な農地の平野と比べ、うってかわって林や森が散在している。


 森が散在しているという事は、森と呼ばれるほどの規模の林が数個は入る規模の広さという事だ。とても広い。


 そして、気になる点が一つ。



「なぜ林道が拓けているんだ?」


 そこに広がる林や森の中にあるのは、ちょうど軽トラが1台通れるような幅の林道。


 路面も平坦で、水たまりなどもない。


 これではまるで人の手が入っている様ではないか。


 もともとこういう作りのダンジョンなのか?



 林道の路面は、アスファルト舗装こそされていないものの、とてもきれいに整地されている。


 どことなく、丸舘市から鹿爪市にある百和田湖に向かう『樹海の道』っぽい感じを受ける。



 とりあえず、その林道を軽トラで進んでみる。



 すると、いかにも人工物ですよといった立て看板が目に入ってきた。


「なんて書いてあるんだ?」


「さあ……地球の言語ではないようですね」


「あれはにゃ、『この辺で狩るといいよ!』って書いてるにゃよ」



「……狩場? いや、その前に何か突っ込むところがあるような気がするのだが……」


「先輩? あの文字? はひつじさんの名札にかかれていた文字に似てますよ? 例の異世界の言語なんじゃないんですか?」


「いや、それはなんとなくわかるんだが、その異世界というのが当たり前のように存在しているていで目の前にどんどん現れてくることに対してだな……」


「あ、この先広場になってるにゃよ。あそこで狩れってことじゃにゃいかにゃ?」



 美剣の言う通り、その看板の少し先には木々が円状に切り開かれたと思しき、体育館くらいの広さの平地が拓けていた。


「ここで狩れってことは……?」


「ヴモオオオオオオオォォォォォォ!」


「うしさんにゃ!」


「いや、ミノタウロスっていう立派な魔物ぉ!」


「先輩! 倒しちゃっていいですか?」



 そこに現れたのは、大きな鉄製のハンマーを軽々と片手で振りかぶる、身長2.5mを越える人型で牛顔の魔物であった。


 たしかにミノタウロスが出るとは聞いていたが、いざ実際にこうして目の当たりにするとその大きさ、迫力に気圧されてしまう。


「人型! 武器持ち! わたしが倒します!」


 そしてマナミサンが殲滅姫モードに。


 ミノタウロスが上段から振り下ろすハンマーを半身をひねることで躱し、その伸びきった腕に『小手』。


 手首ごと武器を手放した相手の脇を駆け抜けざまに『胴』を入れ、体躯を両断とはいかなかったが、その腹部に浅くない傷をつける。


 そして振り向き、うずくまって後ろを向いた状態のミノタウロスの脳天に『面』を放とうとしてその体制のままマナミサンの動きが止まる。


 そうして、ようやくミノタウロスがマナミサンの方に振り返ってから、一閃の『面』。


 その一撃を受けたミノタウロスは光の粒子となって消えていく。


 その前では、決して警戒を解かずに『残心』を残すマナミサン。


 すげえ。おもわず見とれてしまったぜ。


 

 残心を終え、構えを解いたマナミサンが


「まだまだです。初撃から次の動きに移るまでのつなぎがまだ遅いです。あれだと、格上なら確実に反撃を食らってます」


 などとのたまっているのだが、


「いや、そんな風には見えなかったというか、オレからすれば十分華麗な流れるような動きだったんだけどな」


「ありがとうございます。でも、一時いっときスキルに頼ってしまった弊害が出てしまっているんです。スキルだと、なんというかオートモードというか、目的に対しての動きが最適化されるような補助が入るんですけど、それ抜きで自分の意思でその動きを体現したくて。」


 なるほど、そういう理由があって今はスキルを使わなかったのか。


 やっぱり武道に生きてきただけあって色々考えているんだな。脳筋とかの一言でくくってしまってスマンかった。



「よーし、今度は美剣の番だにゃー!」







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