第178話 畑とひつじ。
午前の買い物を終え、我が家の車庫ダンジョン3階層にやってきた。
3人(匹)で2週間は楽に過ごせるような食料や燃料を買い込んで軽トラのストレージに突っ込んであるので大概のことがあっても大丈夫だと思う。
だが、この時は思ってもみなかった。
まさか、あれとあれを持ってくればよかったと後悔するなんて……。
◇ ◇ ◇ ◇
3階層にやってきた。
途中の1階層ではひたすら灰色狼やコボルドを狩っている陽介君たちに挨拶し、日帰り予定ではあるが、もしかしたら数日かかるかもしれないけれど、5日間までは心配しなくて大丈夫と言伝しておく。
なにしろ6日後はストーンダンジョン攻略だからそれまでには戻らないとな。
この階層に広がる広大な畑には、以前来た時と違ってどこの区画にも青々とした、または色とりどりの野菜がたわわに実っている。
特に目を引くのはいかにも熟れてますといった真っ赤なトマト、実がぷりぷりと詰まったようなトウモロコシの黄色。黒と紫のコントラストが鮮やかな大ぶりのナスなどだ。
夏野菜のラインナップから目を遠くにやると、そこには樹木から零れ落ちそうにぶら下がっている栗や柿、桃やリンゴに梨にミカンといった果実がみられ、この階層の季節感はバラバラだ。
おっと、さらに向こうには水をたたえた水田も見えるじゃないか。
そして、視線を手前に戻すと
たしか、前回は『D白46』さんと仲良く会話していたと記憶していたが今回も同じひつじさんなのだろうか?
白色のひつじさんだから多分同じなんだとは思うが、いかんせんひつじの見分けはつかない。
首にかけられているネームプレートも地球の言語じゃないらしいから読めないし。
「にゃーにゃにゃあにゃ? にゃにゃあにゃあ。」
「メエメエヴェエエエエエエエ。メエメエ。」
うん、さっぱりわからん。
広大な畑を一望した後に猫とひつじが会話をしている様を見ていると、どこからともなく白と黒のひつじさんが現れ、魔法を駆使して畑のキャベツや白菜、ニンジンや大根、玉ねぎなどの野菜類を軽トラの荷台に積みこんでくれている。
前回と同じひつじさんだとすれば『D白1』さんと『D黒1』さんなのだろう。
そして、積み込まれた野菜たちはオレが何もしなくとも、なんと荷台のストレージに次々に収納されていく!
ということは、このひつじさんたちはこの軽トラのマスター権限の一部なりを持っているという事なのか?
以前、軽トラのストレージや各種機能が悪用されては困ると検証をした際、協力を頼んだ陽介君たちは何をどうやっても軽トラの機能を使うことはできず、ましてや運転どころかエンジンをかけることさえできなかった。
オレやマナミサン、美剣の時は思うとおりにエンジンもストレージも荷台の空間拡張さえも自由自在だったのにだ。
オレが使用を許可した場合に限るのかなと陽介君たちに使用許可を出しても見たが結局ウンともスンとも言わなかったのに、許可すらしていないひつじさんたちが軽トラの機能を一部とはいえ当たり前のように使用している。
やはり、このダンジョンの3階層以降とこのひつじさんたちは何かしら軽トラの異質化なりに関りがあるのだろうと推測せざるを得なかった。
おっと、美剣が戻ってきたな。
「ご主人。ひつじさんから聞いたんにゃけど、ここのキャベツは回鍋肉に、白菜は鍋に使うのが最適だそうだにゃ」
「……何の話をしていたんだ?」
「あと、カレーにはここのニンジン玉ねぎジャガイモと、あとはビーフカレーなら4階層のミノタウロス、チキンカレーなら5階層のコカトリスを狩ればいいと言っているにゃ。あ、ポークカレーは2階の豚野郎にゃ」
「猫語とひつじ語でグルメ談義でもしてたのか?」
「それでにゃ、もしラム肉やマトン肉がご所望にゃら申し出て下されば喜んでこの身を捧げますと言っているのにゃ」
「いや、さすがにひつじさんは食わねえよ?!」
さすがに美剣のお友達を食べるなんてそんな鬼畜なことはしませんよあなた。
というか、なんか今さらっととんでもない情報が出てきたような気がするのだが。
「さらにさらに、シーフードカレーがご所望にゃら6階層だと言っているにゃ。」
「おおう、海産物まで!」
つまり、今の美剣の話(ひつじさんから聞いた)をまとめると、
地下4階層にはミノタウロスが出る。
地下5階層にはコカトリスが。
そして地下6階層は海産物というからには海でもあるのかな?
概ねこんな感じだろう。
それにしても、このダンジョンは食材のデパートなのかな?
しかも、全てタダだというし。
そういえば、この前これらの野菜との『等価交換』とのことでどこかに持ち去られたとってもおいしいプチトマトだが、あれ以降1階層に置いたプランターの苗には同じような実をつけることがない。
ようやく実った果実は、たしかにスーパーで売られている他のプチトマトに比べれば格段にうまかったのだが、あの時の物のようにとんでもない衝撃や、体にドーピング作用のあるような劇的な感覚をもたらしてくれるものではなかったのだ。
やはり、等価交換というからにはもうあの実はここのダンジョンでは実らないんだろう。
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