第147話 まどろみ

「はっ!」


 どうやらオレは眠っていたようだ。コタツに入って夕食のとんかつを食べながらビールを飲んだのがいけなかったようだ。


 すでに部屋は真っ暗。オレはコタツに身体を半分入れて、上半身にはマナミサンがかけてくれたのか毛布がかかっている。


 そして、毛布の中には猫の姿の美剣みけがすやすやと眠っている。おかげでとてもあったかい。


 そういえば、オレはなにか夢を見ていたような気がする。


 なんだったろう。なんか、不思議な感じの夢だったような気がする。


 あの、夢独特の、現実と虚構が入り混じる世界観。実在の人物が役割を変えて現れたり、まだ見ぬ人物とやけに懇意だったり。

 そんな感覚が残りながらも、妙にリアリティを持った体験。


「あれは……異世界、なのかな」


 けっして今の現実世界ではありえない光景。


 現在、過去、未来。時系列さえ曖昧だ。


「あれ……? 時系列? そういえば、寝る前になんか考え事をしてたような……?」


 

 ああ、思い出した。日中に潜った3階層の事だ。


 1階も2階もオレ達が初めて入ったのは間違いないと思う。


 だが、3階層だけは、先に誰かが立入っていた形跡がありありと残されていた。


 これではつじつまが合わない。




 だが。


 もし、3階層だけとしたら……?


 そして、


 存在するずれていたとしたら……?



 隊長ズや駐在さんは言っていたではないか。『異世界』という文言を。



 そもそも、ダンジョンというのは本当にそこの場所の地中にある空間ではないことは知識ではわかっていたはずだ。

 仮に、ウチの車庫の周りをボーリングで掘削調査しても、超音波エコー検査したとしても、そこに広大な空間があるという事実は出てこない。


 じゃあ、2階から3階に降りた時、その階層同士が本当に上下に隣接しているかどうかもわからないのではないか。

 もしかしたら、階層を跨ぐ度、いや、玄室に入るたびにも、それぞれ異なる空間だったり世界だったりするかもしれない。




 そうだ。空間もずれるのだ。

 

 ならば、時間だってずれても不思議ではないんじゃないのか。




 漠然とだが、そこまで考えが及んだ時。


「ご主人? 起きたのかニャ? そのままだと風邪ひくニャよ?」


 美剣を起こしてしまったようだ。


「ああ、スマン。部屋に戻るな。」


「今日は美剣も一緒にゃ」



 ネコの姿のままの美剣を胸に抱き、部屋のベッドに入り布団にくるまる。


 そういえば、風呂も入りそびれたな。朝一番でシャワーを浴びないと――


 すでに再度の眠りについた美剣のぬくもりを抱き、オレはまた眠りの世界へと落ちていったのだった。

 

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