第125話 試食

 オレが以前ダンジョン内に植えたプランターのプチトマト。


 ふとその存在を思い出して見てみると。そこにはたわわに実ったたくさんのプチトマトの実。


「で、食べても問題ないのかな?」


「大丈夫だと思いますよ? ネットでは、ダンジョン内で栽培に成功したほうれん草を食べてパワーアップした人とかいましたから」


 アメリカの水兵さんのアニメかな?


 まあ、ダンジョンは脳内イメージとか潜在意識とかが思わぬ形で具現化するみたいだし、そういう事もありなのだろう。


 なら、トマトはどんな効果をもたらすのか?


「トマトの印象は……体に良い?」


「ヨーロッパには『トマトが赤くなると医者が青くなる』ってことわざ? もありますよね」


「にゃー、普通のネコはトマト食べないのかにゃー?」


 美剣みけよ、自分で自分の事を普通じゃないとかいうんじゃない。お兄さんは悲しくなるじゃないか。


 つまりは、健康になるってことでいいのだろうか。


 とりあえず、植えた者の責任として、オレが一番手で試食してみるか。

 

 もし毒があったとしても解毒ポーションもあるし大丈夫だろう。



「どれ。では、食べてみるぞ?」


 オレはたわわに実った実の中からほどよい一個を選んでもぎ取り、ヘタを取って口に運ぶ。

 その実を咀嚼すると、中からは濃厚なトマトの果汁が口腔内に飛び散り、口の中を満たしていく!


「あンまぁぁぁぁぁぁあああああああああーーーーーーい!!」


 なんという美味! これはもはや野菜ではない。糖度の高い果実よりも濃厚な甘さが舌の味蕾を刺激する!

 砂糖とはまた違う、果実特有のさわやかな甘さ! 喉を動かさなくても自然に食道内に流れ込んでいくその果汁!


「はあ……。何と表現すればいいのか……。甘くてさわやかでうまいとしか言いようがない……」


 オレの反応を見て、マナミサンも美剣もプチトマトをもぎ取って口に運び、そのうまさに悶絶している。


「これは! メロンよりも甘くてイチゴよりもさわやかです!」


「にゃー! おかわりにゃ! 肉でも魚でもお菓子でもないのに美味いのにゃーーー!!」


 そして、2個目、3個目を食べたオレ達だが、ふとその脳内に危険を知らせる直感が走る。


「なんだ……! なぜかはわからないが、今日はこれ以上食べたらダメな気がする!」


「そうですね。なんというか、体内のキャパがあふれそうな感じがします」


「にゃー、とっても身体が軽いのにゃー! 通常の3倍速く動けるかもにゃー!」


 美剣の言葉で気づく。自分の身体が力に満ち溢れ、脳が全能感に浸っていることに。


 これは……とんでもない合法ドーピングアイテムなのではないだろうか……?

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