第120話 売られるダンジョン

 オレ達は、陽介君たちの捜索の謝礼と金一封、それに、ネコでは日本唯一となる美剣みけの探索者証を受けとり、探索者センターを後にした。


 もちろん、売店でのダンジョンまんじゅうの購入は忘れない。


「先輩? センターの所長さん、気になることを言ってましたね? どうします?」


 所長さんが帰り際に放った一言。それは、


『あ、そういえば、皆さんが捜索しに行ったあのダンジョン。どうやら売りに出されるみたいですね。もしよかったら買いませんか?』


 あの強欲な社長さんがダンジョンを売るといった決断をしたのに驚きはしたが、真に驚いた点はその状況の移りかわるスピードだ。


 陽介君たちの救助からまだ一週間もたっていない。美夏さんはまだ病院のベッドの上だし、陽介君も彼女さんも自身の身体を休めながら美夏さんの看病をしているらしい。


 なんでも、あの捜索騒ぎで警察やら自衛隊が物々しく訪れたのを見た近隣住民から、『そんな危険なダンジョンはしかるべきところに管理をしてもらわないと、夜もおちおち眠れない』などといった内容の苦情があり、社長さんはいろいろつるし上げにあったらしく、手放す決断をしたんだとか。


 だが、その先はさすがに強欲社長と言うべきか、国に売却すればいいものを、民間相手にオークションにかけるというのだ。少しでも高く売りたいのだろう。


 あのダンジョンの評価額は、迷宮型、類推で深度5層、【脅威度】は下から3番目のEランク、【資産期待値】も下から3番目のEランク。【成長可能性】はFランクとのこと。

 国の評価額は160万円とのことで、最低入札金額もその値段から開始されるらしい。

 もし購入したばあいは、購入価格がいくらになったにせよ、国への税金は年間で国の評価額の5割と言うのは動かないので年80万円となる。


「買う人いるのかな? たしか、買うにもそれなりの条件があるんだよな?」


 もうひとつ驚いた点は、民間同士で、しかも個人もダンジョンが売買できるという事実だ。これまでは、ダンジョンの発生した土地の所有者がそのまま所有するか、または国に売却するかの2択しかないと思っていたのだが、どうやら民間でも売買できるらしいのだ。

 言われてみれば、国を代表するような大企業が所有しているダンジョンも数多くあった。それは単に大企業が有している土地が多いことから、そこにダンジョンが発生する確率が高いからなのかなとも思っていたが、ある条件を満たせば売買できるらしい。


「知らないことが多すぎるな」


「わたしたち普通の人間は、法律の細かい所とか、国の通達や白書なんて読みませんからね。探索者でも知らない人も多いと思いますよ?」


「にゃー、難しい話は眠くなるのにゃ。おやすみにゃ。」



 美剣は寝てしまったが、もうすこしマナミサンと難しい話を続けようか。

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