第119話 美剣の探索者証

「わーい、お出かけニャ」


 美剣みけはネコの姿だ。そう、今は軽トラではなくマナミサンの車に乗っている。

なぜかと言われれば目立ちたくないからの一言に尽きる。


 ましてや今は陽介君たちの救助に参加&成功させたとして探索者支援協会からの謝礼金を受け取りに行くところなのだ。

 もはや、軽トラと美剣の情報は支援協会にも流れているだろうが、それでも極力悪目立ちは避けたい。

 支援協会の職員などから「軽トラを見せてほしい」などと言われかねないのだ。美剣も人型ならば同様に興味を引くだろうから、ネコの姿のままが望ましいと判断したのだ。


 それに、


「にゃー、美剣も人のままで、センターのレストランでお食事したかったのにゃ」


「いや、何回も言っているが、お前は軽トラから離れると猫に戻るからな? せいぜいドライブスルーが関の山だ。」


「アメリカとかみたいに屋外シアターとかあれば車に乗ったまま注文して飲食できますのにね」


 どっちみち、美剣は軽トラから降りれば猫に戻ってしまう。あえて軽トラで人型の姿で出かけるメリットがほとんどないのだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「それでは、これが捜索参加の謝礼金と、あとは人命救助の感謝状、そして金一封です。この度はほんとうにありがとうございました。」


 探索者支援センターの事務室にはいり、所長さんから諸々を受け取る。周りにいるのは事務の数人のみで、目立ちたくないオレたちに配慮してくれているようである。


 ちなみに謝礼金は一人頭10万円。美剣はネコ扱いで探索者証がないのでオレとマナミサンの二人分。それに金一封も10万円。合計30万円を受け取った。


「あ、遭難者の九嶋さんたちから支払われる捜索の日当ですけど、どうしても本人たちが直接手渡したいというので後日受け取って下さい。」


 なるほど、遭難者からの日当という名目のお礼は、本来はこの場で一緒に手渡されるものなのか。


 たしかに、通常であれば遭難者と捜索者とは赤の他人だし、直接顔を合わせることが互いに気まずい場合も多いだろう。

 例えば、探索者が無理な探索をして遭難した場合とか、捜索むなしく遭難者の救助がかなわずに命を落としてしまった場合などは特に……。


 ちなみに、本来であれば捜索中に倒した魔物の魔石やドロップ品はそれを倒した捜索者のものになるのが通例という事だが、あの欲塗れのおっさんにいらぬ言質を与えたくなかったので、忘れたふりをしてみんな置いてきた。腐れ縁を切ったと思えば安いものだ。


 そして――


「はい、これは美剣さんの探索者証です。あ、非公式ですので、他の方とか他のネコには見せないで下さいね?」 

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