第108話 捜索④
「トンボモドキか!」
熊岱市のダンジョン2階層に突入したオレたちは、初めての空を飛ぶ魔物と出会っていた。
このトンボを数回り大きくしたような魔物は、その強靭な顎による噛みつき攻撃もさることながら、口から高温のガス――ブレスを吐き出す魔物のはずだ。
自由にダンジョン内の空間を飛び回るトンボモドキは、オレたちのパーティーとは相性が悪い。ネコツメ、刀、盾という攻撃手段ではトンボモドキに届かないし、マナミサンのファイヤも回数に限りがある。ましてや地面を走る軽トラのアタックなんぞ当たるはずもないではないか。
いや、まてよ? 虫?
そうか、相手をトンボと考えると無理っぽいが、『虫』と考えると何とかなるかも!
オレは軽トラを一気に加速! 狭くて短い迷宮内だが、可能な限りの加速をして一気に急ブレーキ。
停車した軽トラのフロント部分には――ぐちゃぐちゃに潰れたトンボモドキがくっついていた。
そう、これこそ「高速道路を走る車に飛んで潰れる迷惑虫アタック」だ!
あの、洗車してもこすっても落ちない虫の汚れ。なんでオレの車の前に命を懸けてまでぶつかってオレの車を汚すんだと言いたくなる虫たちの自爆アタック。
トンボ野郎も虫の一種なら、その本能? に従って飛び込んでくるんじゃないかと思っていたらビンゴだったな!
「「なあ、あんちゃんっていっつもこんないきあたりばったりなことしてんのか?」」
なんか隊長ズがあきれているぞ。
マナミサンよ、うちの旦那がすみませんみたいな熟練の主婦のような顔をするんじゃない。いつの間にそんな仕草覚えたんだ。
「あ、魔石のほかになんか落ちてるニャよ?」
おお、なんかドロップしたな。
さっき、
対して、このトンボモドキは初討伐。うちのダンジョンにも生息していない可能性が高い。
さて、どんな品を落とすのかな?
こ、これは……!
「スプーンだにゃ」
「ナイフとフォークもありますよ?」
もうカトラリーは準備したからいらないんだよぉ!!
このダンジョンも倒した人の望みを読んでレアドロ落とすの? これって全国共通?
っていうか、
「「はっはっは! 兄ちゃん! 腹減ったのか? プロテイン食うか?」」
隊長ズがそう言っているという事は、深層意識にあるものがドロップされる現象は一般的にもまれにある事なのだろう。
まあ、ネットを見ている限りではその情報はほとんど出回っていないのだが。
それにしても、どんどん隊長ズがマッチョの属性になってくるのはなぜだろう?
最初は普通の隊長さんだと思っていたのにな。普通の隊長って何だろう?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の玄室。
またまたトンボモドキが2匹あらわれた。
「美剣にまかせるにゃ!」
そう言って軽トラの荷台から躍り出た美剣は、さっきドロップしたナイフとフォークを放り投げた!
「手裏剣か!」
なんと、この場で美剣の明文化されたスキル、『投擲』が発現したようだ。
「にゃー、これで空飛ぶ敵もお任せニャー!」
「でも、もうナイフとかないぞ」
「にゃー」
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