第103話 遭難の経緯

 熊岱市の、建設会社社長の保有する民間ダンジョン。


 そこの規模は、類推で地下5階層までの迷宮型、現在の最高到達地点は地下2階だそうだ。


 つい先日、2階層に突入した陽介君たちは、社長さんからの「次はぜひ3階層へ」との言葉に焦りを感じていたらしい。


「ワシは、なにも今すぐに3階層に行けと言ったわけではない! これまで通りもっと頑張ってほしいと期待を込めて言っただけなんだ! それを、あの若造ども、真に受けて無茶をしやがって……。ウチのダンジョンで死人が出るなど縁起が悪いったらありやしない! こんな無意味な聴取を続けるよりも、早く探索を進めてくれ!」


 テントの奥では、機動隊の隊長らしき人と向かい合って座っているスーツ姿の初老の男がなにやら大声を出している。おそらく、あれがこのダンジョンの持ち主なんだろう。

 どうやら、警察による遭難に至った経緯等の聴取が行われているらしい。そばには労基署から来たと思われる人もいる。

 監督責任とか、使用者責任とか問われると思っているのか、社長さんも必死だ。



 その場面を見ているオレに向かって、自衛隊の隊長さんがいたずらっぽく肩をすくめて見せる。

 立場上語ることはできないが、というところだろう。

 

 社長はああは言ってはいるが、実際言われた方からすれば指示か命令に聞こえたであろうことは容易に推測できる。まして、あの剣幕でいわれたとしたら。隊長さんも、オレと同じ思いをいだいているのだろう。


「ああ、ごめんごめん。では、もうすぐダンジョンから伝令が来るだろうから、その人についていって、現場で指示をもらってくれ。レベルが6という事はそれなりに強いんだろう? 彼女さんの持っている刀も強そうだし、期待しているよ」


「それなんですが、自分たちは単独行動で捜索させてもらいたいのですが?」


 オレがそう言うと、それまでにこやかだった隊長さんの態度が急に険しいものに変わった。


「理由を聞いてもいいかね?」


 今、目の前にいるのはオレとマナミサンの二人。もしかして、ダンジョン内であれば避妊いらずで快楽マシマシという噂を聞いたカップルが、捜索協力をダシにしてそのような行為をするためにダンジョンに潜ろうとして来たのだろうかと疑っているのだろう。


「はい、実は、俺の軽トラは【異質化】していてダンジョン内でも走れます。なので、その軽トラを使って捜索させてください。」


「……!」


 真面目な顔をして返された返答の斜め上の内容に一瞬理解が追い付かなかったのだろう。   

 先ほどの不快気な隊長さんの顔が、途端に驚いたものに変わる。


「それは……本当か?」


「はい、ですが、どうか確認とかそういうのは陽介君たちを無事見つけてからにしてください。詳しいお話はそのあとで」



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