第101話 民間ダンジョン
晴田県熊岱市にあるダンジョン。
このダンジョンは、地元建設会社の資材置き場内に発生したものであり、その所有者は同会社の社長さんである。
この社長さんは、地元の市議会議員も務めており、まさに地元の名士といった感じの人物であった。
この会社の敷地にダンジョンが出来たのは、「大発生」と呼ばれる3年前、世界に一斉にダンジョンが出来た時と同じ時期。
当時、ダンジョンに関するノウハウも法整備もなかった時世、この会社は敷地内にできた不審な地下洞窟に、スコップや鶴嘴を持った建築作業員たちを突入させ、見事に返り討ちに合ってしまった。
幸いにして死者こそ出なかったものの、負傷した作業員の中には重篤な怪我を負い、二度と肉体労働が出来なくなったものも数名含まれた。
『業務上の監督責任は、現場とは異なるダンジョン内でも適用になるのか』
『ダンジョン攻略を業務として命じられた場合、労働災害の対象となるのか』
などと言った各種の裁判が即時に開始され、その判例がのちのダンジョン関連法体系の整備に資したのではあるが、この会社にとっては人的資源の従業員と、社会的信用を失った手痛い出来事であった。
事実、来年早々に行われる次の市議会議員選挙では、この会社の社長は当選は無理だろうとの下馬評がすでに上がっている。
そんないわくつきのダンジョンに、建築会社の従業員は仮に業務命令があったとしても探索に携わることを拒んだのは当然の帰結であろう。
このような経緯もあり、周囲の人はダンジョンを国に売却してはどうかと社長に勧めたのだが、一攫千金の夢に憑りつかれてしまった社長はその言を聞き入れなかった。
そして、ダンジョンに潜ることを社員に断られた社長はフリーの探索者を募集する。
探索者専用サイト。ここには、某求人案内所のように、ダンジョンの所有者が自分のダンジョンに潜るメンバーを募集するコーナーも存在する。
『アットホームなダンジョンです。報酬マシマシ! 週休3日! 寮完備! 通勤時間0分!
こんなブラック臭のするうたい文句で募集をかけ、田舎という環境も相まってなかなか希望者が現れなかったのだが、ようやく応募をしてくれた探索者パーティーが現れ、それが九嶋陽介をはじめとする3人組だったという事らしい。
ひさびさに自分のダンジョンに探索が入るという事で社長はご機嫌となり、成果物の8割の税金を差っ引いた残り2割の収入から、その5割を探索者に渡すという破格の報酬契約を結んだようだが、その分、探索に対する期待が増して段々無茶を言い始めたらしかった。
その結果、陽介君たち3人は予定の時間をすぎても地上に戻ってこないという事態が発生したのである。
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