第100話 決意

 県内のダンジョンに潜った探索者が帰ってこない。


『探索者安否確認アプリ』からの通報で明らかになったその遭難は、ここから車で1時間ほどの熊岱市のダンジョン。しかも、遭難したのは探索者講習の時に知り合ったイケメン君パーティーの3人であった。


「これは……行くべきだな。」


 探索者ランキングのポイントが欲しいわけではないし、お金も欲しくないとは言わないがそれほど切羽詰まっているわけでもない。


 ほんの1回。


 たった1回会っただけの人たちではあるが、知人が命の危険にさらされている。

 

 それに、彼らとは約束のようなこともしていた。


『そのうち、一緒に潜りましょう』

そちらの家の車庫ダンジョンにも今度潜らせてくださいね!』

 

 守られる保証もない、ただの社交辞令のような約束なのだが、それを履行しないのと、履行する機会が永遠に失われてしまうのとでは厳然とした違いがある。


―――人の命。


 これに勝るものなどないと、最初に灰色狼に殺されかけた時、そしてこの前テレポーターで飛ばされたときにと、身をもって知ってしまっているではないか。


「先輩? 行くんですね?」


「ああ、陽介君たちを助けに行こう。行かなくちゃいけないと思う。」


「はい! じゃあ、美剣みけちゃんは留守番として、私の車で二人で行くんですね?」


「いや、違う。」


「先輩?」


「軽トラに乗って、美剣も連れて行く!」


「えっ! ……わかりました! 行きましょう!」


「にゃー、美剣も行っていいのかにゃ?」


「ああ、頼む美剣。お前のチカラも貸してくれ。ただし、身バレしないようには極力気を付けなきゃな」


「はいなのにゃ!」







 知人の命がかかっている。


 たしかに、軽トラや美剣の秘密は隠し通しておきたい。


 だけど、秘密を守ることを優先して、もしも陽介君たちの命が失われてしまったら?


 それほど親しいわけでもない、たった一度会って言葉を交わしただけの知り合いでも。


 それでも、きっとオレは後悔するだろう。


 マナミサンも、美剣も、そんなことは望まないはずだ。


 現に、マナミサンはオレの覚悟を察してくれているし、美剣だって同様だ。


 陽介君たちを。


 人の命を助けられるのならば。


 たとえ秘密がばれても仕方がない。




 軽トラは取り上げられるかもしれない。


 だが、命とは引き換えにはできない。


 

 美剣も、研究対象として連れていかれるかもしれない。

 

 もし、そうなったらネットに書き込むなりマスコミにリークするなり大騒ぎして、どうにかして美剣を取り戻そう。


 軽トラに乗ったまま、レベルアップの恩恵を生かした戦闘力で地上で抵抗してもいい。


 たとえ、犯罪者になったとしても、姉たちはむしろ褒めてくれるだろう。


 マナミサンの両親だって。いや、マナミサンはオレが唆したことにして、どうにか無罪か、軽い罪になるようにしよう。





 よし、心は決まった。



「さあ、陽介君たちを助けに行こう! 軽トラ部隊、出撃だ!」


「「はい(にゃ)!!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る