第97話 駐在さん①

 それは、探索を休みにしていたとある日の午前中の事だった。


 『ピンポ~ン♪』


「あれ、ご主人。お客様にゃよ?」


「そうだな、ああ、美剣。不用意にしゃべるなよ?」


「はいにゃ」


 そう言って玄関に出ると、すでにマナミサンが客に応対していた。


「先輩、駐在所の方です」


「え? ああ、巡回か」


 警察には、巡回連絡と言って管内の住民の家を直接回り、家族構成や勤務先、何かあった場合の緊急時の連絡先などを聴取して簿冊化する業務がある。

 

 それに、我が家の場合ダンジョンもあるため定期的な警察官の巡回も義務付けられている為、こうして警察官が訪ねてくるのは別に特別なことではない。


「あれ? 確か、兄の同期の方ですよね?」


「あ、はい。あなたは早坂の妹さんでしたか。いや、すっかり大きくなりましたね」


 どうやら、この駐在さんはマナミサンの兄の同期生らしい。あ、マナミサンの兄は警察官なのだ。お義兄さん、もうそろそろ赤ちゃんが生まれるらしいから、その時はご挨拶しに行かねば。


「あ、武田さん、こんにちは。今日は、ダンジョンの巡回と、後は、この前刀を買われましたよね? それの保管状態の確認で参りました。あ、申し遅れました。わたくし、上中岡駐在所勤務で、地域係兼、ダンジョン係兼務の武藤晴臣巡査部長と申します。」


「はい、ご苦労様です。では、まずは刀ですね。こっちのロッカーに入ってます。」


 オレは玄関わきの部屋に武藤巡査部長を案内し、刀の入った鍵付きのスチールロッカーを指し示す。


 探索者が使用する刀剣類や刃が付いた長物、銃器などは一般の猟銃と同様に、家屋内の施錠の出来る場所に保管する義務がある。そして、警察官にはその保管状態を定期的に確認する業務もあるのだ。


 ロッカーを指し示したオレの目に、鍵穴に刺さったままの鍵が映る。あっ、やべ。


「えっと、武田さんもその表情で理解していると思いますが、カギはしっかりかけて、ロッカーとは別の場所で保管してくださいね。まあ、今回は初回の検査ですので見なかったことにしておきます。」


「はあ、申し訳ありません。以後気をつけます」


 オレはそう言って、中の刀を見せた後おもむろに鍵を抜いてポケットに仕舞いこむ。


 その後は我が家に増えた住人、マナミサンの事を手短に説明。武藤巡査部長は特に反応するでもなく淡々と案内簿というやつに記載していく。


「では、次はダンジョンの方を確認させてください。入口までで結構ですので」


 警察官によるダンジョンの確認は、主に安全確保の観点から行われるので、ダンジョン出入り口の魔物溢出アラート装置がしっかり設置されているかどうかの確認と、

探索状況のおおまかな聴取のみである。


 武藤巡査部長をダンジョンに案内しようと、靴を履いて玄関からでたところ、オレの目の前には今まで見たことのないものが鎮座していた。

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