第94話 剣舞

「はあっっ!」


 マナミサンが日本刀を持って訓練場で素振りを始める。


 刀を体の真ん中で構える中段の構えから、面や小手、胴打ちなどの基本動作を少しした後、その動作を滑らかに繋げ、まるで舞でも舞っているかのように刀を振るい始める。


 ある程度動いた後、マナミサンがこちらに駆け寄ってくる。


「先輩! たった今、あたらしいスキルが手に入りました! 感覚では、『剣舞』って感じです!」


 そうか、さっきの美しい動きはスキルが発動? してたのか? 

 っていうか、ダンジョン内でもない地上でもスキルって発生するもんなのかな?


 後で調べたとところ、地上でもスキルのイメージを体得した事例はあった。

 今回の場合のように刀剣の適性のある者が真剣を持って一定以上の研ぎ澄まされた動きをすると体得することがあるらしい。

 他にも、マナミサンは最近のレベルアップ後に新たなスキルをまだ得ていなかったこと、『殺陣』という素地になるスキルがあったことなど、様々な要素が重なったらしい。

 まあ、といってもスキルが完璧な形で発動するのはやはりダンジョンの中のみであり、地上ではあくまでもそのイメージに沿って体を動かしているに過ぎないという事になるのだが。


「これで、人型の魔物以外にも連続攻撃が出来るようになった気がします!」


「まにゃみ、すごいのにゃー」


 こら美剣、ネコの姿でしゃべるんじゃない。他に人がいないからよかったが。


「ところで、刀は決まったか?」


「はい、スキルを体得した、この刀にします!」


 剣の名前……よりも先に値段を見てしまうのは庶民の癖だな。お値段はジャスト100万円。うん、予算の範囲内でよかった。


「わたしもお金出しますよ?」


「いや、その辺はきっちりしておかないと」


 そんな会話をしながら、販売所のレジに向かう。


 その途中で、その刀の銘を見たところ、


 『刃世正徳はせまさのり』と書いてあった。


「なんか、おっさんみたいな名前だな……」


「じっさい、刀鍛冶の方の名前かもしれませんよ?」


 なるほど、工場製とかではなくちゃんと鍛治打ちして作られた刀だもんな。鍛治師の名前が付くのも道理か。


「にゃんか、こーんにーちわーとか言われそうなのにゃ」


 美剣よ、だからしゃべるんじゃない。



 その後、銃刀法違反にならないよう探索者証を提示して所持申請の書類等を書いたりして、結局、腰に履くためのベルトやお手入れセットを合わせて120万円になった。


 予算を全て使い切ったが、足りなくならなくてよかった。


 例によって売店でダンジョンまんじゅうやダンジョンカレーなどを買い、田舎ではめずらしいペット同伴可の飲食店で昼食を摂って家に帰る。


「にゃー、ペット用のメニューが無かったのにゃ。ネコ差別ニャ」


 ちなみに、ペット同伴可とはいえ、ペットの飲食はご遠慮くださいと張り紙がされていたのだ。まあ、美剣はともかく、たいがいの犬や猫は皿の上できれいに食うなんてできないだろうからな。


「まあまあ、どっちみちペット用だとお前には味が薄いだろ? テイクアウトのかつ丼買ったから食べるか?」


「いただくにゃ」


 車内でかつ丼をこぼさずきれいに食べるネコというシュールな光景を横目に見ながら、家への帰り道を進んでいくのであった。



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