第90話 みんなのしょくぎょう

 ひょんなことから姉と子供たちがレベルアップしてしまった。

 

 そんな矢先、甥の蒼がなにやらオレの怪我を治せるかもという発言。もしかして……?


「あ、ああ。できるのか? 蒼。じゃあ、試しにやってみてくれ」


「うん、じゃあ行くよ、『治れヒール』!」


 ああ……やっぱり。オレがあれほど生えるのを期待していた回復魔法を、たったひとつレベルが上がった甥っ子がやすやすと唱えてしまった……。


 まあ、でもこの速さで魔法を覚えたという事は、『君主ロード』ではなくで『僧侶プリースト』なんだろうけど。


「よしおじちゃん、あの魔石? って一個一万円くらい? あ、でも大きさが微妙に違うから、これは1万102円で、こっちは1万30円ってところだね。あ、あとねえ、今度あの狼出てきたらさ、なんか眠らせる事出来そうなんだよね。試していい?」


 こっちは『司教ビショップ』かい!


 僧侶はゲームの中では初級職とはいえ、この現実世界では魔法の技能に目覚める確率はそんなに高くはないのだが……。

 それに司教なんて一応上級職じゃないか。これで梢の将来は探索支援センターの買取カウンターへの就職が約束されたようなもんだ。まあ、ダンジョン出たら能力使えないんだけどね。それでも『識別』の能力持ちなら地上でも馴染むのが早いだろう。


ところで、もう一人レベルアップした人がいるはずなのだが……


「佳樹! あの狼野郎、今度出てきたら私がしばくからね! わたしのナックルパンチが火を噴くんだから!」


 あー、そういえばこの人、忘れてたけど、若かりし日はレディース張ってたんだった……。

 ステゴロってことは……『武闘家』なのかな? たしか線画ダンジョンRPGには出てこなかった職業だが、まあいいか。気にしたら負けだ。


 それにしても姉は今後闘いの血が騒いでしょうがなくなるのだろうか? なんか義兄さんに申し訳ないな。ははは……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 レベルアップによって、なんかこの後ダンジョンを探索しても大丈夫そうな戦力が整ってしまったのだが、約束は約束だ。そろそろ武田家ダンジョンツアーはお開きとしよう。


 マナミサンが梢と蒼を伴い、ダンジョンの階段を上ろうとしていたとき、姉がオレに近寄ってきた。


「ねえ、佳樹? あんた、なんか隠してることあるんじゃない?」


 なんてするどい方なんだ。この人は昔からこうだったな。オレの青春の盛りのころの愛読書肌色の多い本をよく見つけては机の上にさらしてくれてたっけ。


「えっ……と、まあ、あることはある。だけど、やましい事とかではなくてだな、知ってしまったら面倒に巻き込まれるとか、そういった類のことで隠していることは確かにある。」


 オレは昔っから姉にはウソがつけないのだ。


「そう、あんたの事だから、また一人で抱えて悩んでるんでしょ? あ、でも真奈美さんがいるから一人ではないのね。」


「ああ、そうだな」


「ところで、あの軽トラに鍵がささったままなのは、その秘密とやらになんか関係があるのかねえ?」


……!

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