第88話 写真撮影

 結局、姪の梢に押し切られ、ダンジョンの中を案内することになった。


「にゃーにゃーにゃー?」


「ミケはお留守番な」


「にゃっ!?」


 美剣みけを連れて行って人型になるところを見られたらたまらない。これは軽トラが云々よりも切実な、一番の秘密だ。だから普通のネコとして扱うしかないんだ。うん。


「にゃーにゃーにゃー!」


 チュー〇あげるからおとなしくしていてくれ、頼むから。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ダンジョンに続く階段を降りていく。


 大丈夫だとは思うが、どんな突発的な危険があるかもわからないのでオレとマナミサンはフル装備。姉や梢や蒼にもヘルメットとかかぶせている。

 ちなみに蒼が被っているのはオレが中学校の時にかぶっていた自転車通学用のものだ。もう20年近くたつけど、まだ割れたりしていない。結構丈夫に出来てるんだな。


 最初の玄室に入る。ここから先は隊列をしっかり組まなければならない。

 マナミサンが先頭、姉や子供たちを挟んでオレは最後尾だ。


「ここがダンジョンの最初の部屋だ。ここから奥は本当に危険だから、入っていいのはここまでだからな。」


 そればっかりは譲れない。もし灰色狼が9体×4グループなんて出てきたら、いくらレベルが上がったオレとマナミサンでも非戦闘員を守り切るのは不可能だ。美剣がいても危ういだろう。


「えー、もっと奥に行ってみたいのにー。でも、しょうがないよね、ここまで入れただけで、友達には自慢できるし!」


「……ほえー」


 どうやら梢は納得してくれたようだ。蒼よ、放心するのはいいが口を閉じなさい。


「あら。この軽トラ、懐かしいわね。父さんが母さん乗せて田んぼに行ってた頃を思い出すわね~。ダンジョンの中にあるってことは、もう動かないんでしょ? ちょっと残念ね。」


 そうか、この軽トラはオレだけじゃなく、姉にとっても数少ない両親との時間を思い出させてくれる品なんだよな。


「ああ、オレも残念だ。あ、梢、写真を撮るのはいいが、軽トラは写さないようにな。いろいろ面倒になるから。」


「えー、よくわかんないけど分かった。ねえ、よしおじちゃん! このカメラで私を撮って!」


 梢から手渡されたカメラで梢のピース写真やら、手でハートを作ったポーズやらを撮っていく。


「ありがとー。じゃあ、よしおじちゃんとまなみお姉ちゃん! 二人並んで! ラブラブの写真撮ってあげるから!」


 お姉さんと呼ばれたマナミサンが嬉しそうにオレの隣に駆け寄ってくる。よかったな、おばさんと呼ばれなくて。って、痛い痛い、つねるなマナミサン。


「はい、チーズ……と思わせてー、『わっ!!!』 びっくりした? いま驚かせてびっくりした顔を撮るのが流行ってるんだー!」


 特に驚きはしなかったが、なんて変な流行りなんだと思いつつ、ふとあることを思い出した。


「いま、梢、『わっ!!!』って叫んだよな?」


「! あっ、そういえば!」


 そうだ。この最初の玄室は、普段は魔物は出ないが、特定の条件、大声や大きな音に反応して魔物がポップするのだった!


 

  —なにものかにであった!―



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る