第87話 姪の押しに負ける

「「(よし)おじちゃん! だんじょんいきたいー!」」


「ダメだ。危ないんだぞ?」


「えー、お友達に、ダンジョン行くって言っちゃったー! 写真撮っていかないと嘘つきって言われちゃうよー!」


「いや、どのみちダンジョン内でスマホもデジカメも使えないから写真は無理だろ?」


「へっへーん! そんな心配はご無用なのだ! おじいちゃんからこのカメラ借りてきたんだ!」


 そう言って姪の梢がカバンから取り出したのは、昔の古き良き時代のカメラ。電池が無くても撮影できる代物だ。たしかに、電池のいらないタイプならば電子機器の動作しないダンジョン内であっても動作するだろう。


「いや、それっておじいちゃんの宝物とかじゃないのか? かなり高いはずだぞ、それ。ライ〇って書いてあるし。」


「かわいい孫の頼みだもん! 喜んで貸してくれたよ! それに、おじいちゃんだって『梢が撮った写真が見たい』って言ってたから、おじいちゃんのためにも、ダンジョンで記念撮影しなくちゃいけないの! ね、お願い! ダンジョン入れて!」


 うーん、こんな展開になるとは思ってはいたが、まさかカメラまで持参するとは。


 ダンジョンがこの世にあらわれて以降、ダンジョン内の探索に必要不可欠な静止画や動画などの撮影機器はことごとく使用が不可能だった。

 そんな中で、唯一ともいえる電子機器を用いない撮影手段である過去のカメラが重宝され出した。

 その多くはデジカメ等の普及から生産中止になっており、各メーカーは生産を再開しようとしたものの、生産設備の廃棄や老朽化、専門の職人の不在などで、なかなか民間に安価で流通するほどの大量生産には至っておらず、このように個人が持っていた一眼レフカメラなどはとても高値で取引されているのだ。


「梢? 絶対壊すなよ? それ。100万はするぞたぶん。」


「えー! そんな高いのー! やっばーい! だったらー、こんな高いカメラで撮った写真なんか友達に大人気になれるじゃない! 超やばー!」


 おい、値段を聞いてあきらめるという思考回路はお前にはないのか。

 

 むー、これから毎日このように詰め寄られるのも面倒だしな。まあ、予想はしていた展開だし、ちょちょっと中見せて、満足させて黙らせようか。


「姉さん、こいつらこんなこと言ってるけど、保護者としての判断は?」


「あら、私も入ってみたいわ、ダンジョン。保護者同伴という事で何とかならない?」


 この保護者は……! まあ、こういう性格だともわかっていたことだ。


「仕方ない、行くか。そのかわり、本当に危険だからな、ちゃんとオレのいう事を聞くんだぞ」


「「はーい!!」」


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