第85話 休日
まったりと過ごしていたその日の午後、新聞を見ていたマナミサンが、
「あら、3年前の軽トラ失踪事件、まだ見つかっていないみたいですね」
とつぶやいた。
その事件には覚えがある。
この世界にダンジョンが発生したまさにその日、オレが住むこの晴田県の丸館市の県道で、勤め帰りの会社員が乗っていた軽トラごと突然消息を絶ったのだ。
同日のダンジョン発生のニュースに紛れて全国放送では全く報道されなかったが、地方紙の片隅にはその事件の事が載っていた。
同じ市町村で起きた事件であり、オレも軽トラに乗っていたことから妙に気になっていたのだ。
「このご家族の方、達観してますね。奥さんなんて、『そのうち帰ってくると思います』なんて楽観的なコメントしてますよ」
「んー、もしかして、本当に帰ってくるってわかってたりしてな。ひそかに連絡とってたりとか」
「まさか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕方、オレのスマホの着信音が鳴る。
珍しいなと思い、かかってきた番号を見ると、この前ダンジョンの中にいた時にかかってきていたのと同じ番号だった。
「この前と同じ番号? 一体誰だろう?」
「詐欺とかじゃないんですか?」
「いや、詐欺とかだったら同じ番号使ってかけてきたりしないだろう」
コールが5回鳴ったあたりでオレは電話に出た。
「はい、もしもし? 武田ですが?」
「あー! よしおじちゃん! ようやく出てくれたー!」
なんと、電話の向こうにいたのは仙台に住む10歳のオレの姪、高崎
「おまえ、このスマホはどうしたんだ?」
「へっへっーん! 最近物騒だからって、パパが買ってくれたの! いいでしょう! でね? 最初に電話するのはよしおじちゃんってきめてたからー、この前もかけたのに出てくれないんだもん!」
「そうか、知らない番号だったからな。事前に電話で教えてくれれば……って、どのみち電話もらっても知らない番号だと出ないし……うん、オレ何言ってんだろうな。まああれだ、悪かったな。」
「なに言ってるのかわかんないけど、これからはちゃんと出てね!」
「はいはい、わかったわかった。で、なにか用か?」
「うん! お正月のこども会行事も終わったから、残りの冬休みの間、 そっちに遊びに行くから連絡しておけってママに言われたの!」
「そうか、みんなで来るのか?」
「んーと、パパはお仕事どうなるか分からないって言ってたけど、わたしと、ママと、
「そうか、わかった。気をつけて来いな」
「うん! あ、そっち行ったらお説教だからね?」
「……? なんでだ?」
「だって、よしおじちゃん、梢と結婚してくれるって言ってたのにお嫁さんもらうんでしょ! そのおよめさんにもらいばる宣言するんだから!」
「はははっ……お手柔らかに……」
「だめー。じゃあねー!」
そう言って怒涛のような電話は切れた。
どうやら、正月に姉一家が来るらしい。
美剣のこととか、いろいろ対策をしておかなければ。
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