第84話 帰還

 新たに手に入れた軽トラの新機能、ヘッドアップディスプレイのカーナビマップによって、オレたちは無事上のフロアに続く階段を発見していた。


「さあ、階段を上るぞ」


「軽トラさん、大丈夫でしょうか?」


「なーに、軽トラはすごいんだぞ? 川の堤防のブロックの上とか、角度の付いた法面とかバリバリ走っている動画とかあるからな。」


「……あれって、結局ひっくり返ったり色々壊れたりしてませんでしたっけ……」


 懸念はあったが、無事軽トラは上のフロアに続く階段を走破した。


「おお、やっぱりさっきのフロアは地下2階という事で正しかったな」


 階段を上ってきたその先には、見覚えのある色の壁と床のフロア。明らかに、テレポーターで飛ばされる前に居た階層である。 


 フロントガラスのマップによると、どうやらここは大きな灰色狼が出現した玄室の3つ隣の玄室らしい。


「こんな近くだったのにゃ」


 この階段のある玄室から出る際の扉は、どうやら一方通行になっているらしく、もう一回この玄室に入るには別の扉から入らねばならないようだ。

 そして、そちらの扉には鍵がかかっており、その鍵を開けるには大きな狼を倒したときに手に入れたカギが必要だった。


「時間はかかったが、どうにか戻ってこれたな。早いとこ地上に戻って、家にもどってまったりしよう。」


「お腹すいたのにゃ」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 無事、テレポーターの罠から生還した翌日は、さすがに疲労がたまっていたので探索は休みにした。


「あんなこともあるから、このアプリにしっかり登録しておくべきなのかもな」


 探索者パーティーが、何らかの理由で探索から帰ってこないとき、それを把握して場合によっては捜索隊を派遣するために使用される『探索者安否確認アプリ』というものがある。

 機能はいたって単純で、探索に向かう際に潜るダンジョン名と戻りの予定時刻をアプリ内でセットするだけだ。無事に帰還した時には、そのアプリで帰還報告を入れる。もちろん、スマホの操作は地上にいるときに行う必要がある。

 もし、予定時刻を大幅に過ぎてもそのパーティーが戻らない場合はアプリを通じて探索者支援センターから最寄りの支部や警察署、自衛隊駐屯地などに連絡が行き、状況によっては捜索・救出隊が組織される仕組みだ。


「あれ? 先輩、下手に捜索に来られても美剣ちゃんの事とかバレたら困るから使わないって言ってませんでした?」


「ああ、そうなんだけどな。今回は、一階に戻る階段のところに鍵の付いた扉があっただろ? もしあれが、カギを入手する前で、しかも隣に一方通行の扉とかなかったら、オレたちは2階に閉じ込められてしまっていたと思うとな。やっぱ秘密よりも、皆の命の方が大切なんだと身に染みたよ」


「たしかにそうですね」


「あとは、スプーンとか、箸とか、携帯ガスコンロとか買い出しに行かないとな」


「お買い物ついていくニャ」


 ということで、この日は3人で買い物をしたりしてまったりとすごすことになったのだった。


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