第81話 暗闇

 元居た階に戻る階段を探して玄室を渡り歩く。


 回廊同士を隔てる扉を開けたとき、視界は一気に闇に包まれた。


「ダークゾーンか!」


 ダークゾーンとは。

 某線画ダンジョンRPGでは、ダンジョン内は壁や床がほのかな燐光を発し、たいまつ等が無くても視界は確保されているのだが、あるエリアに入るとその光が全くなく、視界が真っ暗になってしまい、その場所をダークゾーンと呼称する。

 ちなみに、そのエリアを攻略するには僧侶系の迷宮を照らす魔法を唱えても無効化されるため、魔法使い系の現在地確認の魔法を唱えるか、地道なマッピングでエリアの構造を暗記するという方法が取られている。


「にゃー、真っ暗にゃー。」


「手元の方眼紙も見えないので……マッピングどころか現在地の確認も……どうします?」


「大丈夫だ。問題ない。」



「ライト!」






 何のことはない。


 軽トラのライトを点けただけである。


 魔法の光ならば魔力を散らされて効果が無くなるのだろうが、軽トラのヘッドライトに魔力は関係ない。


「よく見えますね」


「あそこに落とし穴があるのにゃ。くくっ、丸見えニャー」



 数歩先には膝の高さ位の約1m四方の落とし穴ピット。何も見えない状態でここに足を踏み入れれば転倒するなどしてある程度のダメージは受けてしまうだろう。


「見えるとただの穴だな」


「あれだと軽トラでまたげますね」


 運転免許の講習で習った。凹はまたぐ! 凸は乗り越える! 



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ダークゾーン内で、玄室に続く扉を見つけ、その中に入る。


 そこには、暗闇の中で大きなカエル? が6体ほどオレたちを待ち構えていた。


「気をつけろ! こいつは毒持ちだ!」


と、叫んだその瞬間、大カエルは3匹同時にオレに向かって長い舌で攻撃してきた!


「くっ! 食らっちまった!」


 舌の攻撃を2本までは盾で防いだのだが、真横から伸ばされたもう一匹の舌の攻撃が軽トラのヘッドライトの照射範囲の外から来たため避けることが出来なかった。


「これが、毒状態か」


 身体がだるい。身体が動かなくはないのだが、動くたびに体力が消耗していくのがわかる。

 それでもどうにか1匹を『盾打撃』で光の霧に変えたところで、マナミサンがファイヤーで2匹、美剣が3匹の首を刎ね飛ばし戦闘は終了する。


「先輩! 大丈夫ですか!?」


 毒状態は、そのままにしておくと命に係わる。一歩移動するごとに、戦闘でターンが経過するごとに継続ダメージが入り、その蓄積で命を落とすのだ。

 早々に治療が必要なのだが、今のオレたちには回復呪文を覚える職業の者はいない。


「毒消しポーション使います?」

 

 毒消しポーションは、探索者センターから念のために数本購入しておいた。何と一本3万円。ちなみに、ドロップ品をセンターに売却する際には、税金がかかって売却価格は6千円になってしまう。

 

 命には代えられないが、もったいない気持ちもある。


 なんにせよ、このまま移動すれば体力が失われて死んでしまうのだから。


 移動……移動? あれ?


 毒状態で「歩けば」ダメージ食うけど、軽トラに乗って「移動」するんなら大丈夫じゃね?



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