第70話 軽トラはなぜ動くか

『なぜ、ダンジョン内で使えないはずのスマホが使えるのか』


 その謎を解明すべく、オレたちは色々試してみた。




「あ、ここまで離れると電源が落ちますね」


 ふむ、どうやら軽トラから半径5mくらい離れると、通常のダンジョン内と同じようにスマホは使えなくなるようだ。

 スマホだけでなく、他の電子機器や電池を使う機器、例えばラジオや懐中電灯なども持ち込んでみたが、結果はスマホの時と同じだった。

 ちなみに、この前勢い100%で衝動買いした除雪機も、ダンジョン入り口の扉を超えてダンジョン内に入ったらピタッとエンジンが止まったのだが、軽トラのそばでならエンジンがかかっていた。エンジンが止まった状態の除雪機を押して動かすのは大変だった……。

 なお、別の次元に存在すると噂されるダンジョン内にスマホの電波が通じていることに関しては考えないことにした。どれほど考えても結論は出そうにないし、ダンジョンの謎理論としか言いようがないであろう。





「どう考えても、軽トラが原因だよなー」


「そうですね。軽トラの半径5m以内だと、地上の電子機器なども使用できる、ということは間違いないですね」


「にゃー、美剣みけはやることがないのにゃ。ヒマだから、ちょいと魔物を狩ってくるのニャ」


 美剣は一匹ひとりで魔物を狩りに行ってしまった。まあ、あの強さならこの辺の敵は複数出ても瞬殺だろう。


「だが、それだと美剣が地上でも人間の姿のままだったのも、軽トラの能力なのかな?」


「そう考えるのが自然なんですが……先輩は何か引っかかっているんですか?」


「うーん、なんというか……事の発端は、軽トラがダンジョン内でも動くってことなんだよなーって考えると、なんだか……」


 オレが引っかかっているのはそこだ。たしかに、軽トラにはダンジョン内で動かないものを動かす力があるように思える。だが、軽トラも動かないはずのダンジョン内で動くのだ。

 

 何かの力で、動かないものが動く。「Aという力があって、Bという機器たちが動く」と考えると、スマホや懐中電灯はB群だ。だが、この理論だと軽トラはAであり、かつBなのだ。両方の要素を兼ね備えていることになる。

 

 逆を考えてみよう。ダンジョン内でしか発動しないはずの事柄、軽トラの『収納』や美剣の『人化』について考える。

 つまりはAという力によって、ダンジョンの外でもC群の『収納』『人化』が発動するとして、軽トラは=『収納』軽トラと収納を同じものと考えれば軽トラはAであり、かつCとなりうるが、『軽トラ』という本体と『収納』という能力を分けて考えるなら、『軽トラ』というAがあるからC群の『収納』能力が発動する、となる。


 こう考えると、AとB群の場合にも、なにか『軽トラ』の本体と分けて考える要素があるような気がする。

 例えば、B群に軽トラの『エンジンのみ』と考えるとして、軽トラの車体のエンジン以外の部分に、なにか『A』となる要素がある気がするのだ。


「う~ん、軽トラの中……エンジン以外……!? 軽トラの……中!」



 オレは、すっかり忘れていたあることに気がついたのだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る