第63話 寒がりと匂いフェチ

「ご主人」


「なんだ」


「この前、分配お金はいらにゃいと言ったが、あれはウソにゃ!」


「どうしたんだ一体」


 先日探索者センターで換金した額はおよそ65万円。半分をパーティー共通費、残りを3等分して、一人に10万ちょいの分配をしている。

 軽トラの取り分は……ない。


 マナミサンなんかは「生活費です!」と言って全額オレに渡そうとしたが、「妻なら家計をやりくりしてくれ」と、5万程上乗せして返しておいた。それはもう喜んで「妻……奥さん……細君……」とか言いながら早速家計簿ソフトに入力していたな。


 で、10万円をもらった美剣はというと――

 「いらにゃい」と言って受け取ろうとしなかったので、ホームセンターで買った招き猫の貯金箱に無理やり突っ込んでおいたのだが、「ご主人に預けるニャ」と言ってオレに渡してきたので仕方なく預かってはいる。

 

 で、それが昨日の今日でこの言動だ。




「これを買って欲しいのにゃ」


 美剣みけは、オレの読んでいた新聞紙に突進してきて、猫の本能でさんざん新聞紙をガサガサ言わせて遊んだ後に、全面広告になっているページに目を止めていた。


炬燵こたつか」


「はいにゃ!」


 そのページには、遠赤外線でとてもあったかいとの売り文句、さらに高級羽毛炬燵布団とテーブル板もセットで5万円という、ちょっと高級な炬燵が載っていた。炬燵にしては高くない?


「確かに寒くなってきたしな。よし、出すか。」


「にゃっ?」


「押入れの中にあるんだよ、炬燵」


「わーい! こたつにゃー!」


 ということで、押入れの中から炬燵を取り出しセットする。この炬燵は、ついこの前まで一人暮らしだったオレにとっては冬期間の食卓兼晩酌拠点兼ドライヤー兼寝床として活躍していたものだ。


「あったかいのにゃ。それにご主人の匂いがするニャ」


「うっ、それは加齢臭と言ってだな……」


「先輩の匂いです! これでごはん3杯はいけます!」


 匂いフェチなのかな? でも、30過ぎのおっさんでも一応羞恥心はあるのだ。

 

「クリーニングに出してこよう」


「「えー(なのにゃ)」」


「はいはい、炬燵から出た出た」


 かたくなに動かない美剣を無視して炬燵布団を外し、悲し気な顔のマナミサンを尻目にクリーニングに出すべく家を出る。






「寒いのにゃー!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「「ぶーぶー、(にゃーにゃー)」」


 クリーニング店から帰ってきた後は、皆でダンジョンの攻略だ。

 

 こたつをひっぺがえされた美剣と、フェチを阻止されたマナミサンがブーブー言っている。


「よーし、次の部屋玄室行くぞー」


「ぶー、美剣はこのやるせなさを魔物にぶつけるニャ」


「わたしも負けませんよ! ああ、先輩の長年染みついた匂いが……!」


 寒がりと変態を無視して軽トラで玄室の扉を押し開ける。


 


 ―なにものかにであった!―



「「「くっさ(いのにゃ)ー!!!!」」」



 

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