第56話 分配

 マナミサンは、先日のレベルアップで、戦技『殺陣たて』を習得していたようだ。


「これだと、むしろコボルドとかの人型の方が与しやすい感じだな。」


「はい。複数の人型相手だと動きのイメージがわいてきます。敵のここを打って、重心をこっちに、とか、うまく説明できませんけど、『できるっ!』っていうか、『いけるっ!』ていう感覚がするんです。」


「ああ、オレの『挑発』でも敵を引き付けるイメージが頭に浮かぶからな。その感覚はわかる」


「にゃー、美剣みけも、魔物の首が、ここを狙えと、ここを斬るべしと叫んでくるのにゃ!」


 ふむ、美剣のはちょっとホラーだが、覚える技はみんな感覚的に習得するものらしいな。


「これなら、早いとこ真奈美に斬れる刀を買わなくちゃな」


 今、マナミサンが使っているのは本物の刀と重さや重心、持ち手がおんなじ、訓練用の模造刀。ぶっちゃけ鉄の棒である。斬れる本物の刀はお高くて手が出なかったのだ。


「いや、私が自分でお金ためて買います。私の武器ですから。」


「いやいや、お前の武器でもあるが、パーティーおれたちの武器でもあるからな。それに、いままでろくに収益配分とかしてなかったし。パーティー共通費という事で、受け入れてくれ。」


 うん、今話しながら気が付いてしまったが、なぜにオレは気前よく除雪機を買ってしまったのだろう? いくら除雪機はオレの家の物でオレの貯金から出したとはいえ、その金を貸すなり、共通費に忍び込ませるなどすれば刀買えたのに……


「先輩? 先輩のお金を共通費に足しちゃだめですよ?」


 思考が読まれた!


「私は先輩の妻(いまのところ内縁)ですし、美剣ちゃんも飼い猫です。だから、お金は世帯主である先輩が全部持っているべきです。」


「その理屈だったら、世帯主が妻の買物の代金を出すのは道理だろうに」


「あ」


「にゃー、なんだかややこしくてわけが分からなくなってきたにゃあ」


 確かに。


 結局、ダンジョンの収益は2分の1をパーティー共通費に。残り2分の1を3等分して各人(猫)への給料として運用し、各月ごとに一定の額を生活費として徴収することに決めた。オレが独断で。


「もっと先輩の取り分を増やすべきです。」


「わたしに現金おかねくれても、まさに猫に小判なのにゃ」


 反対意見は多々あるが、いまのとこ他に上手い案も思いつかない。とりあえず決めた通り運用して、時間がたてばいい案も出てくるだろう。


 うーん! お金ってムズカシイネ!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る