第53話 真奈美の過去

 マナミサンがおかしい。


 いや、マナミサンの様子がおかしい。


 探索者専用サイトのニュース記事、そこに載っている自衛隊の第1部隊の記事。

 最初は普通に見ていたが、途中の一枚の写真を見て様子が変わった。

 

 サポートメンバーが映っている写真を見るなり、ダンジョンに討伐に行こう宣言。


 午前は除雪機を注文しに行き昼食を摂ってまったりした後だったので、今は午後2時過ぎ。確かに時間はあるが、今日は休みにしていたはずだ。

 一体どうしたというのだろうか? なだめてみようとも思ったが、なんか一人でも突入しそうな雰囲気だったので、装備を整えてダンジョンに潜る。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「はあっ!」


 エンカウントするなり、荷台から飛び出て模擬刀を振るうマナミサン。狼やスライムなんか、オレが軽トラの運転席から降りようとドアを開ける暇もなく瞬殺してしまう。

 人型のコボルドなんか、きっちり小手を決めて相手の武器を落とし、胴を決めてから面でひるませ、喉への突きでとどめを刺して、残心まで完璧な剣道の所作だ。それってオーバーキルですよ。

 

「むう、出番がないニャ」


 美剣みけまでもがその気迫に押されて手を出せないでいる。


「真奈美、そろそろ敵が複数出るエリアになる。少し休憩しよう。」


「まだまだ行けますわ。もっと、もっと……」


「真奈美! 落ち着け!」


 様子のおかしいマナミサンをたしなめる為に、あえて大きな声で名を叫ぶ。

 

 ビクッとするマナミサンと、驚いて尻尾の毛を逆立たせる美剣。


「なにがあったか知らんが、今のお前、そのままだったら強くなるどころか命を落とすぞ?」


「……はい。ごめんなさい。」


 ようやく落ち着いたマナミサン。


 軽トラの助手席に座らせて話を聞くと、どうやら自衛隊のサポートメンバーの中に知った顔がいたらしい。


「彼女とは、全国大会でよく顔を合わせていました。」


 なんと、高校時代、剣道のライバルだったようだ。


「1年の時、個人戦の準決勝で彼女に負けました。2年の時は、組み合わせ悪く3回戦で当たってしまって同じく負けました。リベンジを誓っていた3年の大会でしたが、個人戦ではまた決勝で負けてしまいました。団体戦でも、準々決勝で大将同士の戦いで負けました。私は、彼女に一回も勝てなかったんです。」


 どうやら、単なるライバルではなく、因縁の相手らしい。


「あのとき、届かなかった相手が、今は国の第一線で活躍している。あの時勝てていたら、もしかしたらあそこにいるのは私かもしれなかった。国を代表するような強者になれていたかも……って。そう思ったら、自分がとっても情けなくなって、このままじゃいけないって。自分には何にもないって……心が苦しくなっちゃって……。もう、剣道はあきらめたはずなのに……ごめんなさい、先輩、美剣ちゃん。」


「そうだったのか」


「そうだったのにゃ」


 美剣、軽トラの運転液は狭いんだ、人型のままむりやり膝の上に乗るんじゃない。

  

「こういういい方は納得できないかもしれないが――、オレは、その娘が真奈美に勝ってくれてよかったと思うな」


「え……?」


「だって、おかげでオレみたいな男に強くてかわいい嫁さんが来てくれたんだからな。頼れるパーティーメンバーでもあるし。」


「先輩……」


「もし真奈美が全国優勝して、自衛隊のあのメンバーになっていたなら、オレと出会う事なんてなかったし、それに真奈美があのマッチョたちと、って考えたら無茶苦茶ジェラシーで腹が立ってきた」


「先輩! 大好きです!」



 この後、変に気を利かせた美剣がスライムからレアドロップを取ってきたため、なし崩しに絆を深め合ったのであった……。 

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